2023 Fiscal Year Research-status Report
「心で体を引っ張る」:身体不調時のサイキングアップに関する脳内メカニズムの解明
Project/Area Number |
20K11331
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
小谷 泰則 東京工業大学, リベラルアーツ研究教育院, 准教授 (40240759)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大上 淑美 東京工業大学, リベラルアーツ研究教育院, 研究員 (30456264)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | スポーツ心理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
アスリートのためのメンタルトレーニングの技法については、調子の悪いときに心を奮い立たせ、ベストな状態に近づけていく「サイキングアップ」に関する研究は非常に少な い。一方、近年の脳科学では、脳のON/OFFの切り替えを脳の中の3つのネットワークが行っているという「トリプルネットワーク理論」が提唱されるようになった。本研究では、fMRIと脳波を用いて脳のネットワークの活動を測定し、サイキングアップの脳内メカニズムを調べることを目的とした。 2023年度では、脳のネットワークの切り替えに関与している「島皮質(とうひしつ)」の活動に注目し分析を行った。特に、島皮質は右脳と左脳の島皮質を比較すると右脳の島皮質の方がより大きく活動する「右脳優位性」を示す事がわかっている。この右脳優位性が覚醒水準の上昇(サイキングアップ)によりどのように変化するかについて検討した。その結果、覚醒水準の上昇が低い場合(サイキングアップがない場合)においては、右脳の島皮質と左脳の島皮質の活動を比較すると、右脳の島皮質の方が活動が高まることがわかった。一方で、覚醒水準の上昇がみられる場合(サイキングアップがある場合)においては、左脳の島皮質の活動が右脳の島皮質の活動と同じレベルまで上昇し、結果として右脳優位性がなくなることがわかった。このことは、サイキングアップによって左脳の島皮質の活動が高まる可能性を示している。左能の島皮質は、「ポジティブな感情」と関連することがわかっている(クレイグ, 2023)。このことから、サイキングアップ技法による「心を奮い立たせ、前向きな感情を発生させる」機能は、左能の島皮質が関与している可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
2020年における新型コロナウイルスの発生から、2023年の5月に新型コロナウイルスの感染法上の分類が5類に移行するまでの間、首都圏においては比較的長い期間患者数の増減を繰り返すことがあった。そのため実験の中断・再開を繰り返すことが発生した。さらに2023年度の5類移行後も、予定していた実験参加者が新型コロナウイルスに感染したり、またインフルエンザが流行するなどの事象が発生し、実験の実施を調整する必要があった。そのため当初の予定よりも研究遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、特にネットワーク解析に注力する。すでに2023年度にネットワーク分析を開始し、右脳および左脳の島皮質が他のどの脳領域と連絡しているかを検討している。特に右脳の島皮質の他の脳領域への連結性(Connectivity)と左脳の島皮質の連結性を比較する。さらに、今回、左の島皮質がサイキングアップと関連していることがわかったことから、左脳の島皮質がどのような要因の影響を受けるかについて分析し、サイキングアップの機能にどのような要因が関連しているかも調べる。 その他、島皮質以外のネットワークの切替えに関連する脳領域についてもどのような活動を行っているか、また、どのような他の脳領域との連結性を持っているかを検討していく。 脳波の研究においては、身体(末梢)の覚醒水準を高める刺激を与えた時に、島皮質と関連する脳波事象関連電位がどのように変化するかを調べる実験をすでに開始している。この実験を進め、脳波とfMRIのデータを比較しながらサイキングアップの効果について検討する。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスが感染法上の5類に移行したが、その後、首都圏では人の移動・会合等が増え、新型コロナウイルスやインフルエンザが流行した。特に実験を予定していた夏以降に、実験参加者がインフルエンザや新型コロナウイルスに感染したための体調不良を訴えることが多く、予定していた実験を中止にしたケースが多くなった。そのため、実験を終了することができず、次年度使用額が発生した。 20204年度は、インフルエンザ等の流行も収束に向かうことが予想されるため、次年度使用額を実験実施のために使用する予定である。
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