2020 Fiscal Year Research-status Report
運動離れの脳機構解明に向けた動物モデルの確立と扁桃体の関与の検討
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20K11393
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Research Institution | Health Sciences University of Hokkaido |
Principal Investigator |
井上 恒志郎 北海道医療大学, リハビリテーション科学部, 講師 (30708574)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | BALB/cマウス / トレッドミル走運動 / 血中コルチコステロン濃度 / 視床下部室傍核 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の仮説は、ストレス感受性の高いBALB/cマウスにとってトレッドミル走運動(TR)はストレスを伴う嫌悪刺激となり、TRを経験したBALB/cマウスでは、TRを回避する行動がみられ、扁桃体がその回避行動の調節に関与するである。この仮説検証のため、当該年度には、TR がBALB/c マウスにとってストレスを伴う嫌悪刺激になるか否かの確認を行った。実験では、外頸静脈カニューレ留置手術を施したBALB/cマウスを30分間の安静(トレッドミル上、Sed、n=6)、および低強度(10m/min、LTR、n=6)または高強度(25m/min、HTR、n=6)のTRに暴露し、運動前、運動直後、運動80分後の3点で採血を行い、運動80分後の採血終了後に脳の摘出を行った。採血した血液から、乳酸値分析器で血中乳酸値を、ラジオイムノアッセイにより血中コルチコステロン(CORT)濃度を測定した。また摘出した脳から切片を作成し、免疫組織化学染色により神経活動マーカーであるc-fosの染色を行い、ストレス中枢である視床下部室傍核(PVN)のc-fos陽性細胞数をカウントした。 統計解析の結果、Sed群と比較して、LTR群の運動直後の血中乳酸値、両運動群の運動直後の血中CORT濃度は有意に高値を示した(Two-way ANOVA、p<0.05、Bonferroni)。またPVNのc-fos陽性細胞数は、Sed群と比較して、両運動群で有意な増加が認められた(One-way ANOVA、p<0.05、Tukey)。強度で血中乳酸値動態が異なる理由は不明だが、血中CORT濃度とPVNの結果は、BALB/cマウスでは、運動強度非依存的にTRがストレス刺激となることを示す。現在嫌悪記憶の形成や表出を司る扁桃体の神経活動を小領域別に解析中であるが、上記結果を第76回日本体力医学会大会(三重)で報告予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度は、TR がBALB/cマウスにとってストレスを伴う嫌悪刺激になるか否か確認することを課題とした。前述の通り、当該年度の実験により、血中ストレスマーカーであるCORT濃度と脳ストレス中枢であるPVNの神経活動の結果から、BALB/c マウスにとってTRは運動強度に関係なくストレス反応を亢進することが明らかになった。これにより、課題前半部分の「TR がBALB/cマウスにとってストレスになるか」の確認ができた。一方、後半部分の「嫌悪刺激になるか否か」の確認については、当初の実験計画では逆行性トレーサーを用いて扁桃体における神経回路の解析を行う予定であったが、新型コロナの影響で逆行性トレーサーの海外輸入に予定外の期間を要したため、ひとまず逆行性トレーサーの投与は行わず、嫌悪記憶形成を担う扁桃体各領域におけるc-fos陽性細胞数の解析により、嫌悪刺激になるか否かの検討を行うこととした。現在、扁桃体各領域におけるc-fos陽性細胞数の検討中ではあるが、当該年度に予定していた実験の大方は遂行され、研究の方向性に大きな変更点もないことから、おおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点では、仮説通りの結果が得られているため、今後も当初の計画通り研究を進めていく予定である。まずは当該年度の積み残し課題である扁桃体各領域におけるc-fos陽性細胞数の解析を進めていく。切片を作成し、免疫組織化学染色でc-fos陽性細胞を染色するところまでは終了しているため、今後は、顕微鏡による陽性細胞数のカウントと統計解析を行っていく。 この解析が終了次第、次の課題に移行する。次の研究課題では、事前のTR経験の有無がTR環境再暴露時の回避行動に及ぼす影響を検討する。また、海外輸入品の逆行性トレーサーの取得が完了したため、この回避行動がどのような神経回路によって調節されているかを逆行性トレーサーを用いて検討して行く。神経回路の検討の際には、上記の「扁桃体各領域におけるc-fos陽性細胞数」の結果を踏まえながら、標的とする扁桃体神経回路を定め、トレーサーの投与や解析を行って行く予定である。トレーサーの投与や神経回路解析に必要な機器は当該年度までに購入し、設置済みであるが、TR回避行動の評価に必要な機器が未設置である。特注となるため、積み残し課題を進行している間に設置を完了させ、スムースに本課題に移れるように計画している。
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Causes of Carryover |
新型コロナの影響により、学会が軒並みオンラインでの開催となり、また参加を断念せざるおえない大会もあった。そのため、発表や参加のための旅費・参加費として予定していた支出が大きく減額となった。次年度については、現時点では現地開催の大会がいくつか予定されているが、新型コロナの状況が未知であるため、旅費がどの程度必要になるのか予想が立てられない。しかし、予定額を超えることはないと予想されるので、今年度旅費として計上し、未執行だったものについては今後の研究遂行加速に役立つ物品の調達や学会参加・報告機会のさらなる増加、論文執筆などに配分していきたいと考える。
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