2021 Fiscal Year Research-status Report
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20K11428
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
長澤 純一 日本大学, 文理学部, 教授 (40228002)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 心拍変動 / 非線形解析 / 至適運動強度 |
Outline of Annual Research Achievements |
運動のプログラミングに際し,運動強度と心拍数に直線的関係がみられることを利用して心拍数を運動強度の指標とすることが広く行われている。他方,心拍変動は,自律神経系の状態や,心血管系の健全性などと言った観点から着目されている。本研究は,心拍変動をトレンド除去法(DFA法)を適用して解析し,とくに自律神経性の制御ならびに循環系の健全性を保ちうる,という観点から至適運動強度をとらえられるかを明確にしようとした。 これまで,COVID-19の社会環境で,昨年度は,ヒトを対象とした測定がほとんど進行できなかったため,宣言発出などの合間を縫ってパイロットスタディ的に基礎的なデータを収集した。測定系は3系統で,1)DFA法の指標“α”の再現性:5回の同一内容の運動において同等の結果が得られるか,また測定の時間は何分間が適切であるか,2)長時間の運動によって心拍変動にドリフトが生じるか,および3)同一負荷と推定される様式の異なった運動(自転車運動とトレッドミル走行)において,運動様式の差が認められるか,についてデータを得た。その結果,1)安静状態では,心拍数もα値も同様の環境(測定:10時-12時,23℃,50%)の測定(5回)の変動係数には差が認められなかった。また,エルゴメーターを用いた50Wおよび125W12分間(60rpm)の5回の運動では,心拍数の変動係数は4-6%,α1では12-13%を示した。2)45分間の自転車運動において,125W運動時には,心拍数に弱いドリフト(心拍数の漸次上昇)が観察され,その事例ではα1の値は少しずつ低下する現象が認められた。3)ACSMの代謝方程式と心拍数で計算された様式の違う同等負荷運動においては,α1に有意な差は認められなかった。 以上,これら基本的なデータ収集の結果から,DFA法のαは,かなり安定的に収集できる指標であることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
COVID-19の状況によって,被験者を継続的に研究室来てもらって測定できる環境になかった。このため,比較的に短期間で採取可能な基礎的なデータ収集に努めたが,当初計画していた内容を完全にこなすには至らなかった。とはいえ,テーマとしての結論を定めるためには欠かせないデータになりうるもので,最終年度に向けて十分取り返すことが可能であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
「運動強度は低すぎても運動の良い効果が得られず,また強すぎても危険である」が,では「どのくらいの強度が至適か」については,必ずしも明示的ではない。本研究は,HRV解析にDFA法を適用し,種々の環境要因を考慮した(自律神経性の制御ならびに循環系の健全性を保ちうる,という観点から)至適運動強度を明確にしようとするものである。昨年度に基礎的なデータ収集を行ったので,今後,低酸素環境など生体負荷の違いに応用可能な指標であるかさらに検討を行っていくことにしている。体力および環境の違いに対して,α値は妥当な差を提供するかについて確認する。α値を利用した運動処方の方がより良いという根拠を既存の生理指標から得るのは撞着になりかねないので,αが1から下回る(あるいは安静値を下回る)強度のポイントにおいて生体内で何が変わろうとしているのかを,DNAマイクロアレイを利用してmRNAの変動から網羅的に測定し明らかにする。 具体的には,1)漸増負荷中の呼気ガスパラメータ,血中乳酸濃度,ストレスホルモン濃度, SpO2, SmO2(筋),唾液酸化還元電位等の測定により,これまでの運動強度設定の基準となっているパラメーターとの関連を調査する,2)上記パラメーターに関連し,α1動態の極大値,安静値との差分(Δ値)など最適な評価法を探る,3)α1が1から下回る強度のポイントおよび定常運動負荷前後に変動を示す遺伝子情報を網羅的に検索し,αが1から下回る強度のポイントを基準に,動く遺伝子の内容と程度を評価する,ことを目標としてまとめに繋げていきたい。
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Causes of Carryover |
強制的に外気導入できる恒温恒湿の実験環境ではあったものの,緊急事態宣言や大学への入構制限などのため,人を対象として最大運動を含む測定を行うには,可能な環境になるまで計画を順延せざるをえなかった。そのほかの遅延あるいは制限要因はないため,今後の社会環境次第ではあるが,着実に課題を遂行したと考えている。
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