2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K11428
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
長澤 純一 日本大学, 文理学部, 教授 (40228002)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 心拍変動 / 非線形解析 / 至適運動強度 / DFA法 / 低酸素 |
Outline of Annual Research Achievements |
心拍変動(Heart Rate Variability:HRV)は,自律神経系の状態や,心血管系の健全性などを評価するものとされている。このため,HRVの数値を”循環系に過剰なストレスを生じさせない運動の水準”などといった見地から,トレーニング強度の指標として応用できないかといった研究が累積されてきている。本研究においても,心拍変動をトレンド除去法(DFA法)を適用して解析し,HRVを利用した至適運動強度を設定する根拠を得られるかを明確にしようとした。 運動は自転車エルゴメーターを用い,様々な運動環境を設定するため,3段階の酸素濃度(20.5%,17.0%,14.5%)を設定し(標高100m,1500mおよび2800m程度を想定),それぞれ3段階の運動負荷(5W,50W,125W)で日を分けて計9回行わせた。HRV解析は,仰臥位安静(10分間安静の後半5分間)に引き続いて35分間運動させ,その間5分ごとの解析を運動終了まで7回行った。 動脈血酸素飽和度は,環境酸素濃度依存的に順序効果を持って低下した。筋酸素飽和度は,20.5%と17%環境では大きな差異を認めず,14.5%のみで顕著な低下傾向を示した。DFA法によるαの値は,5wから50Wでは運動開始当初から大きな変動を示さなかったが, 125W運動時には運動中次第に低下する傾向を示した。これは,酸素濃度の差異にかかわらず生じる傾向であった。また,17%程度までの酸素濃度の低下は,心拍変動のパフォーマンスに大きな差異を与えないことが示された。 最終年度は,HRVに加えて運動がもたらすストレスの程度を評価するために,運動強度の影響とともに低酸素ストレスおよび酸化ストレスの影響を加味してHIF-1に誘導される因子の変容,ならびにNOS3遺伝子関連についてマイクロアレイを用いて評価することにしている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
COVID-19の社会環境で,被験者を測定に集められなかったこと,および機器の故障によって生じた遅延であったが,原因となる状況はすべて解消し,被験者を使った測定はすでに終了している。データは,呼気パラメータ(酸素摂取量,換気量など),経皮的動脈血酸素濃度, 筋酸素飽和度,心拍変動(DFA法によるα1動態の極大値,安静値との差分(Δ値)など)の集計も終了しており,統計的な分析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
運動処方上,運動強度は,%VO2maxや無酸素性作業閾値などを基準として設定されてきたが,これらは暑熱・寒冷,標高などの環境要因が考慮に入れられているわけではない。また,そもそも「本日の至適運動強度は(自転車で)何ワットである」などという処方が困難なのは,個々人のその日の体調や疲労の程度が一様でないために,あまりに具体的な数値設定が適切ではないことにもよっている。自律神経系の状態を基盤とするHRVの測定は,被験者の置かれた環境を鋭敏に反映するため,運動の処方に,より明確な時間および強度設定が可能になるものと考えられる。今後さらに,HRVデータの統計処理,および運動に対するマイクロアレイによる遺伝子上の解析を進め研究を終結させる。
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Causes of Carryover |
COVID-19の社会環境で測定とサンプリングの時期が遅れたため,サンプリング自体は終了したが,研究目的の1つであるマイクロアレイによる分析が残っており,次年度に試薬購入ならびに分析費用として必要額を確保しておく必要が生じた。次年度使用分は,ほぼすべてをこの分析費用に充当させ,全体の分析を集結させる。
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