2021 Fiscal Year Research-status Report
「ウィルダネス」環境下における野外教育プログラムが体験者の自我再構築に及ぼす影響
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20K11459
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
渡邉 仁 筑波大学, 体育系, 助教 (70375476)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 野外教育 / 自然体験プログラム / キャンプ / 教育学 / ウィルダネス |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、野外教育プログラムに関する研究は、プログラム効果の検証とともに、プログラムが展開される「場」自体の意味や機能・構造に注目が集まっている。例えば、公園・里山・人工林・ウィルダネス(wilderness:原生自然)等は、一般に「自然のある環境」と認識されるが、それぞれ似て非なる「場」の価値を持っている。そこで本研究は、児童期から青年期を対象にウィルダネス環境下で野外教育プログラムを実践し、特に「ウィルダネス」という場が、体験者の自我にどのように影響を与えているかを検討することであった。 2021年度(令和3年度)は、【研究課題2・3】として、ウィルダネス環境下の野外教育として「富士山への集団登山プログラム」を選定し、本プログラムに参加した高校生の状態-特性自尊感情に及ぼす影響を明らかにし、「場」の視点からその変容要因を探索的に検討することであった。[方法]分析対象85名に、1週間前/1週間後/5ヶ月後に特性自尊感情(桜井2001)、直前/直後に状態自尊感情(阿部ら2007)を測定した。また、ポジティブとネガティブな出来事、多面的感情、RPE、疲労感、省察的自由記述を、適宜収集した。[結果]①特性自尊感情は向上し5ヶ月後まで維持された。②状態自尊感情は直後にかけて向上した。しかし、状態と特性の変化量に相関はなかった。③状態自尊感情の向上は、ポジティブな出来事が要因であり、「自我の水準低下」がそれらを印象深い体験にする機序であった。また質的分析の結果からは、富士山の象徴性とウィルダネス性が特に重要であり、そこに精神かつ身体的な到達が自尊感情の変容要因であることが示唆された。さらに、プログラムの経済的支援構造や実際的な指導者のサポートは、高校生たちには「無条件の肯定的関心」を想起させており、彼らの自尊心に何らかの影響をあたえているものと推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
【研究課題1】「ウィルダネス」やその周辺用語の概念の整理に関しては、随時、関連文献の収集と検討が進められている。 【研究課題2】ウィルダネス環境下の野外教育プログラムが、高校生の自我の再構築に与える影響を検討するに関しては、プログラム前後および5が月後に、自我に関する指標を用いて量的データを収集し分析を行った。また、同プログラムの数年前の参加者ら、本プログラムが彼らの自伝的記憶としてどのように位置づいているかのデータを収集することができた。 【研究課題3】個々の体験者の視点から自由記述データの一部を収集できたが、半構造化面接データは未収集であり、分析は進んでいない。
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Strategy for Future Research Activity |
【研究課題1】「ウィルダネス」やその周辺用語に関する概念定義の整理は、引き続き、新たに関係構築された研究協力者とともに順次遂行していく。 【研究課題2】野外教育プログラムがクライエントの自我形成(短期/長期)に与える影響を検証するに関しては、2021年度とは異なるプログラムを対象に検証を試みる。具体的には、本研究者自身が中心となってプログラムを実施し、そのプログラムを実験場面として、まずは主に短期的な影響について検証を行う予定である。コロナ禍であっても、感染症対策を講じることにより実施の実現に努める。 【研究課題3】クライエントの自我形成に関して、ウィルダネスはどのような影響を与えているのか、その効果機序を明らかにすることに関しては、当初、M-GTAを用いて「ウィルダネスにおける自我形成獲得モデル」の構築を計画していた。しかし、まず、個別の対象者がどのようにウィルダネスを認識しているのかを検討することし、適宜データを収集して分析することで進めていく。
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Causes of Carryover |
(理由)コロナ禍の影響のため、研究者自身が中心となって実施する野外教育プログラムが実施できず、それに関わる旅費・調査人件費・必要物品等の消耗品費を執行することができなかった。また、関連学会で研究協力者等と情報交換をする予定であったが、大会自体がオンライン開催となり旅費を執行することができなかった。 (使用計画)コロナ禍が継続していたとしても、野外教育プログラムは参加者規模の縮小や感染症対策を十分に講じて実施し、それに関わる旅費・調査人件費・必要物品等の消耗品費を執行する予定である。
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