2022 Fiscal Year Research-status Report
The Origin and Transition of the Concept of Physical Education in the West: An Examination Based on Two Bodies (Biological and Medium)
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20K11471
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
中野 浩一 日本大学, 工学部, 教授 (40579728)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 言葉と概念 / 精神と身体 / 教育学と身体 / 知・徳・体 / 身体教育と運動教育 / 体育とスポーツ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、海外の先行研究でも行われていない、欧米における身体のための教育(以下、身体教育)の概念の起源と、その概念の変遷について明らかにするこ とを目的とする。日本における身体教育の概念については、先行研究(木下秀明『日本体育史研究序説』)が指摘するように、明治初期、欧米教育学説の紹介に より「体育」という言葉が造語されることに始まる。したがって、その概念の起源は、欧米にあるが、未だに検討されていない。 そこで、令和4年度は、ペスタロッチから教育論を学んだにもかかわらず、ヘルバルト(Herbart, J.F.)は、身体教育を否定し、教育目的を精神面の育成に限定してしまうこと、しかし、ヘルバルトの全集で「体操(Gymnastik)」に言及する文献を発見したので、二つの「身体」の観点から分析を加え、ペスタロッチとヘルバルトを比較すること、を計画していた。そして、その成果を教育史学会で発表する予定であった。 しかし、コロナ禍の故、海外での史料収集ができなかったため、これまでの科研費で購入できたヘルバルトの古書を用いて検討を試みた。19巻からなる全集から探すのは困難を極めたが、「体操」に言及する著作が3件あることが特定できた。この3件から、これまでに述べられていない重要な知見を得られることが明らかとなった。 まず、ヘルバルトは、カントなど当時一般的だった認識論に基づいていること、このため、ペスタロッチにおける自然主義の教育論を批判し、その反対の陶冶主義に基づいていること、そして、自然に発達する身体は教育の対象外としていることが明らかとなった。また、「体操」に関しては、社会性などの精神面の育成としか言及していないこと、つまり、身体面の育成については決して、言及していないことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
既述の「研究実績の概要」で示したように、コロナ禍の故、海外での史料収集ができず、これまでの科研費で購入できたヘルバルトの古書を用いての検討に限定せざるを得なかった。このため、考察の厚みに欠け、学会発表するまでには至らず、当初の計画通りには行かない部分があった。 しかし、ある程度まで学会発表と原著論文を作成する準備は整えてあり、本年度から海外出張が可能となれば、いつでも成果を上げられる水準にあると考えている。 以上から、2022(令和4)年度は「やや遅れている」という状況にあると判断できる。 今回の科研費では、原著論文がまだ1本しかできていない結果となっているが、これまでの成果をまとめた著書を1冊、作成する予定となっているので、この完成も急ぎたい。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度は、海外における"physical education"の概念が日本にどのように普及していくのかを検討する。 日本には、明治初期にペスタロッチ主義、明治20年代にヘルバルト主義の教育論が紹介される。これらの教育論が日本に紹介された経緯については、多くの先行研究が存在する。 しかし、それらが日本に紹介される以前に、本来のペスタロッチやヘルバルトにおける身体教育がどのように各国へ伝わっていったのか、そして、それらが日本に伝わる前にどのような変遷を遂げているのか、検討されていない。 そこで、二つの「身体」の観点から分析を加え、その成果を海外の国際教育史学会(ISCHE)で発表する計画である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の故、海外渡航が制限され、予定していた海外での史料収集が出来ず、予定していた旅費を消化できなかったため、次年度使用額が生じた。 今後は、海外渡航が可能となった場合、前年度未使用分と令和5年度分の予算を活用し、史料収集をスイス、ドイツ、イギリス、アメリカ、フランスの図書館・資料館で行い、遅れていた課題の検討を進める所存である。
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