2020 Fiscal Year Research-status Report
Buytendijkの「機能」概念導入によるスポーツ技術分析研究法の構築
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20K11483
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
佐野 淳 筑波大学, 体育系, 教授 (50178802)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 機能運動学 / 機能 / コツ / 技術 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、Buytendijk, F.J.J.が提唱した「機能運動学」(1956)の中核概念である機能(Funktion)の概念に基づいて、“スポーツ技術”あるいは“コツ”の分析方法論の構築を目指すことである。 スポーツにおいて技術の内容あるいはコツ内容の解明は学習者が技やプレーを実施したり指導者がそれを教えていく上で重要なものであるが、今日、その分析方法論については、実践現場を視野に入れた学問的‐理論的根拠をもって提唱されているとは言えない。多くは、動きを客観的立場からバイオメカニクス的に分析したりビデオ映像の映像分析などで得られる因果分析的なデータから得られる動きの効率性を根拠として技術内容が導き出されているのが現状である。ましてや、感覚や感じとしてのコツ内容には、なおさら十分に踏み込んだ研究はなされていない。こうした中で、スポーツ運動学は、学習者本人の意識から技術やコツの内容にアプローチしようとする立場をとるものであるが、しかしそのスポーツ運動学的研究においても、これまでそうした方法の具体的内容の検討とその理論的根拠の提示などについてはやはりまだ十分な取り組みはなされていない。 そうした中で、本研究者はBuytendijkが上記著書の中で提唱、強調した<機能>概念に注目し、そうした認識立場(Buytendijkの機能運動学)から考えると、実践に十分に寄与し得るコツ解明や技術分析方法論が可能になるのでは、と考えた。少なくとも、3年間の本研究の成果として、技術ないしコツの分析方法論構築に対する機能的立場に立った基本原理を示すことが目的である。 そうした目的のもと、令和2年度はまずは、技術内容およびコツ内容の解明という視点から、Buytendijkが敢えて強調した「機能」の概念について、その意味するところと「機能」概念提唱の根拠について検討することに着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究によって提唱しようとするこのスポーツの技術あるいはコツの分析方法論にとって重要なことは、現場にいる学習者が自らの運動から直接に<感じとる>動きかたの内容が単なる感じや意識内容ではなく、まさに“技術”あるいは“コツ”の内容に繋がっていることについて学問的‐理論的根拠をもって示そうとすることである。このような分析方法論の提唱は、これまで行われてきたような科学的‐客観的な動きのモデルの提示ではなく、現場の学習者が意識的‐感覚的に取り上げることのできる実用的かつ有用な情報の提供を目指すべきだ、ということの重要性を主張することを意味している。 そのために本研究は、三段階の研究ステップを設定しました。研究一年目の昨年度は、まず、Buytendijkの「機能」の概念の意味、本質的内容を深く究明する、という課題設定し取り組もうとした。 「機能」の概念は、Buytendijkが体育やスポーツ領域にも大きな影響を与えた『人間の姿勢と運動の一般理論』(Allgemiene Theorie der menschlichen Haltung und Bewegung)(1956)という著書の中で、「過程」概念に対立するものとして言及している概念だが、本研究におけるコツおよび技術研究の方法論の学問的基盤を得るために、本研究者はこのBuytendijkが言及している機能概念の本質を理解することが必要不可欠であると思っている。昨年度実施した研究によって、この機能概念と現象学的概念との関係性がある程度見えてきたが、そうした点は本研究遂行全体の視点からいってもきわめて重要な点であり、本研究者としてある程度満足いくレベルの内容になっていると考えている。そうした理由から、上記(2)を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、当初の計画段階で、以下の課題が三段階のステップで設定されている。 1.技術研究を推し進めるという観点から、Buytendijkの「機能」の概念について、その概念の意味、本質的内容を深く究明する。 2.実際の動きの分析(技術分析)において、「機能」概念の視点からの具体的な分析を試みて、従来の分析研究との違いを明らかにする。 3.「機能」的視点に立ったスポーツ技術の分析方法およびその基本原理を示す。 昨年度はその内上記の1.に取り組んだ。十分だと言えないが、ある程度、満足のいく成果を得られることができたと考えている。上記1.の内容は、基本的に本年度も継続して、さらに厚みのある機能概念の解明を目指していこうと考えている。その際、Buytendijkが指摘する機能概念が「現場」問題の理解で有用な現象学的概念であることの根拠にも言及できるよう、この概念の検討範囲を広げてみようとも考えている。そしてそれと並行して、本年度はスポーツの現場における具体的な動きのコツや技術の内容への注目がどのようになされているのかを具体的に調査したり分析することを、現場の視点から行う予定である。基本的には、本年度の研究課題も当初の計画通りに進めていけるのではないかと考えている。
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Causes of Carryover |
本年度の研究の課題自体は基本的にはおおむね順調に進んだと言える。研究費の使用に関しても、計画的な使用がある程度でき、とくに大きな不都合は生じなかった。ただ、年度末に、昨年度取り組んだ課題の成果の内容整理で予定していた消耗品等の購入(使用)に関しては、年度末に他の業務との兼ね合いもあり、当初予定していた課題成果の整理等を次年度にさせていただいた都合で、一部の金額を次年度分と合わせて使用させていただくことにした。
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