大正末期～昭和初期の学校体育におけるナチュラルダンスの受容と紹介

2021 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 20K11487
• Research Institution: Shimane University
• Principal Investigator: 廣兼 志保 島根大学, 学術研究院教育学系, 教授 (00234021)
• Project Period (FY): 2020-04-01 – 2025-03-31
• Keywords: 大正末期～昭和初期 / 学校体育史 / ダンス教育史 / ダンス教材の移入と取捨選択

Outline of Annual Research Achievements

本研究の目的は、荒木が留学先で見聞したナチュラルダンスの教育理念や教育方法と留学後に彼が紹介したナチュラルダンスの教育理念や教育方法とを比較・対照し、何が取捨選択されて日本に紹介されたかを明らかにすることである。これは今まで注目されてこなかった主題であり、本研究の成果は学校体育史研究の進展に貢献し得る。
令和3年度は、荒木がナチュラルダンスのどのような特徴に注目して日本に紹介したかを探った。その結果、音楽を聴いて感じ取ったイメージを学習者達が思い思いに身体の動きによって表現するという指導法が紹介されていたことがわかった。これは、伴奏音楽に合わせて決められたステップで一斉に行進したり特定の伴奏音楽に振り付けられたステップを皆で一斉に踊ったりといった従来の体育ダンスの指導法とは異なっていた。荒木が紹介したナチュラルダンスの指導法では、音楽を通して物語、感情、思想を感じ取るなかで湧き上がってくる表情や動作を、学習者一人一人が思い思いに表現することが目指されていた。
上記の指導法は、留学中に見聞した、イギリスの帝室ダンス教師協会ナチュラル・ムーブメント支部設立者であるマッジ・アトキンソンの指導法を荒木が自身の著書『體育ダンス敎材集第壱編』で紹介したものである。そこで、指導法の原典を明らかにするために、サリー大学のナチュラル・ムーブメント・アーカイブス・アット・ザ・ナショナル・リソース・センター・フォー・ダンスのwebカタログにアクセスし、マッジ・アトキンソンのナチュラルダンス教育に関する膨大なアーカイブ資料コレクションの中から、彼女が考えるナチュラル・ムーブメントの定義や教育理念、指導法などについて書かれている論文や未公刊のメモなどのリストを選出した。しかし、コロナ禍により、イギリスへの渡航は困難であったため、選出したアーカイブ資料を閲覧・収集することはできなかった。

Current Status of Research Progress

4: Progress in research has been delayed.

Reason

令和2年度から続くコロナ禍により、イギリスへの渡航は困難であり、研究の遂行に必要なアトキンソンの教育理論や教育方法に関する未公刊のアーカイブ資料を閲覧したり収集したりすることがかなわず、資料の講読と分析を進めることができなかったため。

Strategy for Future Research Activity

依然として、コロナ禍により国外でのアーカイブ資料の収集が困難な状況にある。そのため、国内でも入手可能な資料をもとに研究を推進していく。
令和3年度の成果をふまえて、荒木直範が欧米留学を通して理解したナチュラルダンスの教育的価値や教育目標と、従来の体育ダンスの教育目標との相違点について検討する。なかでも「自然」「自己表現と創造的活動」「ダンスにおける音楽と運動」に着目し、当時の芸術文化や学校教育の動向も視野に入れながら、ナチュラルダンスの受容を通して荒木が日本人の心身に何を育てようとしていたかについて考察する。
その際、荒木がナチュラルダンスの代表的な教育者として紹介しているマッジ・アトキンソンやマーガレット・ドゥブラーの著作に記されたナチュラルダンスの教育理念や教育方法とも比較しながら、考察を進める。

Causes of Carryover

コロナウイルス感染防止のため国内外の移動を自粛する必要が生じ、資料収集のための旅費や研究成果発表のための旅費が不要となったこともあり、次年度使用が生じた。
「今後の研究の推進方策」を実行するために、繰り越された研究費を使用する。