2021 Fiscal Year Research-status Report
習慣的な身体運動による脳の保護作用の分子メカニズムの解明
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20K11506
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
新井 秀明 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (60313160)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柳原 大 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (90252725)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 血液脳関門 / 運動 / 脳の老化 / 血管内皮細胞 / 脳の炎症 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では習慣的な身体活動が血液脳関門のバリア機能に及ぼす影響を明らかにすることを目的として研究を行っている。血液脳関門のバリア機能は加齢にともなって低下し認知症などの脳機能の低下の原因のひとつとなると考えられている。習慣的な身体活動によって血液脳関門のバリア機能を維持することができれば、高齢期の脳機能を維持するための生活習慣を確立することが期待できる。 身体活動にともなって骨格筋からはマイオカインというホルモン様の物質が分泌されることが分かっており、これらの物質は身体活動が持つ健康増進効果の物質的な基盤である。マイオカインのうちいくつかの物質は脳に作用し、身体活動による脳機能の向上・維持に関与しており、神経科学の分野ではこのような物質が次々と明らかとなりつつある。本研究では骨格筋から分泌されるマイオカインによる脳機能の向上・維持の作用ポイントのひとつが血液脳関門とそのバリア機能の調節である、という仮説を検証することを目的として研究を行っている。 血液脳関門のバリア機能を決める分子は血管内内皮細胞同士を結合させているClaudin-5、Occludinなどのタイトジャンクションの構成分子である。これらの分子によるタイトジャンクションの形成にはグルコース輸送体1(GLUT1)が極めて重要な役割を果たすことが分かっている。R3年度の研究ではマウスを用いて、あるマイオカインの受容体を活性化した際にGLUT1とその調節因子がどのような変化をするかを検討した。マウスの脳の特定の部位ではGLUT1のタンパク質レベルでの変化は見られなかったものの、その調節因子に部位特異的な変化が見られた。これはmRNAレベル、タンパク質レベルの両方で同じ傾向が見られた。この変化は血液脳関門の機能に非常に重要な影響を持つと予想できR4年度は細胞培養系を用いて分子メカニズムを明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
血液脳関門のバリア機能を検討するためにはタイトジャンクションの構成分子とその上流の調節因子であるGLUT1の発現量の変化を検討する必要があった。また、GLUT1を調節する分子群の発現量の解析を行う必要があった。当初、これらのタンパク質の発現量の変化は通常のウエスタンブロットで解析できると予想していた。しかしながらGLUT1は通常のサンプル調整方法では解析が極めて困難であることが研究の途中で明らかとなった。これを解析するためのサンプル調製法は文献上では記述されていることが少なく、また抗体メーカーのデータシートにも記載されていない場合が多かった。このためサンプル調整の方法を最適化する必要があり、解析までかなりの時間を要することになった。これに付随して、GLUT1の調節因子の解析も同様に最適化する必要があり、研究の進行が遅れることになった。 一方で、研究代表者の所属講座内で他の研究者にqPCRを依頼できることになり、遺伝子発現の解析を行うことができるようになった。これにより研究のレベルを上げることができ、とりわけGLUT1の調節因子に関して非常に重要なデータが得られた。このデータは本研究の核となる仮説を強く支持するものであった。遺伝子発現の解析に関して新たにRNAの精製を行う必要が生じたが、全体としては実験の労力に値する知見が得られたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
R3年度に得られたのは脳の特定の部位のみのデータである。脳の他の部位についても同様の解析を行い部位特異性があるかどうか検証する。 また、R3年度に得られたデータからは対象としているマイオカインにより調節を受ける因子の下流には脳の血管の炎症に関与する分子群が存在することが文献上分かっている。R4年度は実際に脳の血管の炎症を調節するかを検討する。また、脳の血管の炎症の程度を調節できるような適切なin vivoの評価系を探索し、マイオカインの効果を検証する。 一方でこの因子の上流の調節因子はRNAの安定性を決定する分子であることが知られている。R3年度に得られたデータからこの因子のmRNAに変化が見られたので、上流の調節因子が同様にマイオカインの標的となっている可能性が高い。R4年度はこの仮説を検証する。 R3年度までに得られたデータはすべてin vivoのデータであり、分子間の因果関係の証明が必要であるといえる。このため、株化された脳血管内皮細胞であるhCMEC/D3細胞を用いてin vitroの実験を行う。hCMEC/D3細胞を対象としているマイオカインで刺激しin vivoで得られたデータが得られるか検討する。具体的には、内皮細胞の炎症反応に関与する分子群、およびRNAの安定性に影響する分子群の挙動を検討する。また、血液脳関門のバリア機能の解析においては経内皮電気抵抗(TEER)が多用されるため、TEERの測定の実験系を構築し対象としているマイオカインで刺激し血液脳関門のバリア機能への影響を解析する。また、TEERは炎症反応により低下しバリア機能が低下することが知られているので、炎症反応を起こした際にこのマイオカインによってTEERに影響が出るか解析する。
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Causes of Carryover |
タンパク質の発現量の解析のためウエスタンブロットの条件検討(抗体の特異性の検討)を行う際に、新規に試薬を購入する可能性があったため20万円程度(抗体3種類)の金額をすぐに支払える状態にするため、次年度使用額が生じた。例年、2月、3月は実験が大きく進展することが多いため、この時期に使える研究費が全く無くなる状況をつくるのは避けたかったため、やむを得ず次年度使用額が生じた。 R4年度分として請求した助成金と合わせて、R3年度に得られたデータに関連した分子群の挙動を検討するため何種類かの抗体を購入する予定である。
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