2021 Fiscal Year Research-status Report
脳腫瘍増殖の病態メカニズムにおけるオレイン酸代謝の意義の解明
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20K11527
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
香川 慶輝 東北大学, 医学系研究科, 助教 (30728887)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 脂肪酸結合蛋白質 / FABP7 / グリオーマ / 脂質ラフト / オレイン酸 / アセチルCoA / ATP-citrate lyase (ACLY) / イソクエン酸脱水素酵素 (IDH) |
Outline of Annual Research Achievements |
グリオーマは最も頻度の高い脳腫瘍の一つである。中でもグリオブラストーマは浸潤が非常に早く、加えて放射線・化学療法に抵抗性であるため、早期発見・治療となる指針を確立することは急務である。近年、WHOによるグリオーマの分類に遺伝子学的診断が加わり、特に細胞内代謝に関与する重要な酵素であるイソクエン酸脱水素酵素 (IDH) 遺伝子変異の有無により予後が大きく変わることから、細胞内代謝系と脳腫瘍の生物学的特性との関連が注目されているが、その詳細は明らかになっていない。本研究はオレイン酸に強い親和性を持ち、グリオブラストーマに高い発現を示す脂肪酸結合蛋白質 (FABP7) に着目し、“脳腫瘍増殖の病態メカニズムにおけるオレイン酸代謝の意義”を明確にすることを目指すものである。 FABP7は脂肪酸等のリガンドと結合することで、蛋白質の立体構造が変化し、核内移行シグナルが新たに形成され、核に移行するという特性を持つ。これまでにFABP7の局在を変化させるモデル細胞を用いた解析で、FABP7の核局在は核内アセチルCoAを増加させると共にヒストンアセチル化レベルを増加させることを見出した (Kagawa et al. Mol Neurobiol. 2020)。さらに悪性度が高く予後不良の野生型IDH1グリオブラストーマではFABP7の発現が高く、核に強く発現することを見出し、そのFABP7 の核局在とグリオブラストーマの増殖能は強く相間することを明らかにした(Kagawa et al. Mol oncology. 2022)。また脂肪酸の中でもオレイン酸がFABP7の核移行を誘導することも明らかになっており、現在IDH1変異とオレイン酸代謝の関連を詳細に検討している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
FABP7の細胞内局在の意義を検討するため、核移行シグナルや核外移行シグナルを用いてFABP7の局在を人為的に変化させる過剰発現系モデルを作製した。このモデル細胞を用いて、FABP7によるcaveolin-1転写調節機構を検討した結果、FABP7の核局在によりcaveolin-1の転写調節領域のH3K27acレベルが増加すると共にmRNA発現が増加すること、一方で、FABP7の細胞質局在はコントロールと同レベルを示すことを見出した。さらにFABP7の核局在は核内アセチルCoAを増加させること、FABP7はアセチルCoA精製に重要なATP-citrate lyase (ACLY)と相互作用を持つことを見出した。これらの結果より、「FABP7は脂肪酸などのリガンド結合後、核へ移行し、核内のACLYと相互作用をもつことで核内アセチルCoA代謝-ヒストンアセチル化を制御しcaveolin-1遺伝子の転写を誘導すること」が考えられる。この新知見はMol Neurobiol.(57(12):4891-4910. 2020)で報告した。 さらに悪性度が高く予後不良の野生型IDH1グリオブラストーマではFABP7の発現が高く、核に強く発現することを見出した。また、グリオブラストーマでもFABP7 の核局在はエピジェネティックなcaveolin-1発現制御機構に関与していること、カベオラ形成能増加に伴う細胞内シグナリングの活性化に関与し、その細胞活性能がグリオブラストーマ増殖能に強く結びついていることを明らかにした。この新知見はMol Oncol (16(1):289-306. 2022)で報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
FABP7による核内アセチルCoA代謝制御機構にオレイン酸が及ぼす影響を検討する。加えて、オレイン酸は細胞質・核内の脂肪滴形成を誘導する脂肪酸であり、近年、核内脂肪滴の形成と遺伝子発現制御機構、特にエピゲノム変化への関与が多々報告されている。そこで、細胞質・核内脂肪滴形成制御機構におけるFABP7の役割を新たに検討していく。 また、IDH変異を伴うグリオーマにおけるFABP7の局在を検討する。現在、IDH1変異を誘導したグリオーマ細胞株の作成を行っている。また、臨床サンプルとして新WHO分類に基づいた各種グリオーマの臨床サンプルの収集も継続的に行っている。準備が整い次第、IDH1変異グリオーマにおけるFABP7の役割およびオレイン酸の細胞内機能の解析を進める。
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Causes of Carryover |
現地参加予定であった学会がオンライン開催となり、旅費支出が減少したため、繰越金が生じた。繰り越し分は次年度の消耗品に充てる予定である。
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