2021 Fiscal Year Research-status Report
肥満2型糖尿病のインスリン分泌および作用障害におけるXORの役割の解明
Project/Area Number |
20K11590
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
藤城 緑 日本大学, 医学部, 助教 (50420211)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山名 碧 日本大学, 医学部, 助手 (40869468)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 2型糖尿病 / キサンチン酸化還元酵素 |
Outline of Annual Research Achievements |
肥満を伴う2型糖尿病患者では、酸化ストレスや慢性的な炎症が全身の血管合併症を進行させることが知られています。中でも、尿酸代謝に関わるキサンチン酸化還元酵素(XOR)の働きが強くなっていることが、最近注目されています。本研究では、インスリンを分泌する膵β細胞(MIN6)と、インスリンの働きにより血糖値を取り込む脂肪細胞の両者に遺伝子操作を施して、インスリンの分泌と作用の両者の障害に、XORがどのように影響しているかを解き明かすことで、抗糖尿病薬の創薬に繋がる成果を目指しています。遺伝子導入操作には、非分裂細胞において長期間の発現が可能なアデノ随伴ウイルス(Adeno-Associated Virus:AAV)を用います。具体的には、AAV を用いて、還元型XORであるキサンチン脱水素酵素(Xdh) 遺伝子の過剰発現およびshRNAによる発現抑制を目指します。令和3年度は、まず、AAVでの発現を試みる前に、MIN6で安定細胞株を作製しようと試みましたが、XdhのcDNAが約5 kbpと大きく、十分な発現が得られませんでした。 一方で、MIN6のうち、インスリン分泌能が悪いクローン株でXdhの発現が多くなっていることが明らかになりました。そこで、インスリン分泌能が悪いMIN6細胞クローン株において、shRNAによりXdhの発現を抑制することで、インスリン分泌能が改善するかを検討してみることにしました。現在、インスリン分泌能が悪いMIN6細胞クローン株をもとに、遺伝子発現修飾を効率的に行うためのマスター細胞を作製しています。 また、AAV serotype 2 を基盤とするAAV作成キットを用いてAAVを作ろうと試みましたが、うまくいかないため、脂肪細胞やMIN6でより効率が良いとされているAAV serotype 8用のplasmidを入手して、作成を試みているところです。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、2型糖尿病で見られるXOR亢進状態における、インスリン分泌およびインスリン作用の両側面における障害を基礎レベルで解明するために、インスリン分泌臓器を代表する膵β細胞と、インスリン作用臓器を代表する脂肪細胞の両者を遺伝子修飾することにより、それぞれの細胞における、XOR作用の重要性を明らかにすることを目的としている。XOR蛋白を過剰発現および発現抑制させるために、当初、導入効率が良く、我々がこれまでの経験から手技を熟知しているアデノウイルスベクターを用いた手法の採用を計画し、2020年度には、XOR cDNAとXOR shRNA配列(Kushiyama A, Arterioscler Thromb Vasc Biol, 2012)をアデノウイルス作製シャトルベクターに組み込み、293細胞を用いてそれぞれを発現するアデノウイルスを作成した。予備実験として、マウス胎児線維芽細胞株3T3-L1細胞を成熟脂肪細胞に分化させ、インスリン刺激により、グルコース取り込みが亢進することを確認した。正常に分化していることが確認できた3T3-L1細胞にアデノウイルスを感染させ、一過性に遺伝子修飾タンパクを過剰発現させる手法を試みたが、残念ながら感染効率が悪く、期待する遺伝子修飾効果を確認できなかった。そのため、より安全で、非分裂細胞において長期間の発現が可能なアデノ随伴ウイルス(Adeno-Associated Virus:AAV)を用いて、安定的な遺伝子導入操作を行う手法に切り替えることとし、2021年度に、XOR遺伝子を含むplasmid、AAVの発現調節因子およびcapsidタンパクを発現するplasmid、AAV産生に必要なadenovirusタンパクを発現するplasmidを大腸菌で構築、増殖させ、精製する作業が完了した。計画の変更が必要となったため、当初予定より遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
脂肪細胞と膵β細胞におけるXOR作用の重要性を明らかにする目的で、XOR蛋白を過剰発現および発現抑制させるために、当初予定していたアデノウイルスによる手法ではなく、より安全で、非分裂細胞において長期間の発現が可能なアデノ随伴ウイルス(AAV)を用いて、安定的な遺伝子導入操作を行うこととした。現在までに、XOR遺伝子を含むplasmid、AAVの発現調節因子およびcapsidタンパクを発現するplasmid、AAV産生に必要なadenovirusタンパクを発現するplasmidの作製が完了した。今後、これら3つのplasmidをHEK293細胞に導入し、組換えAAVを作製し、まずは、成熟脂肪細胞に分化させた3T3-L1細胞に、AAV遺伝子導入システムによりXOR遺伝子を過剰発現または発現抑制させ、細胞アポトーシスの程度、ブドウ糖取り込み能を検証する。次に、膵β細胞由来細胞株MIN6細胞に、同様の手法でXOR遺伝子を過剰発現または発現抑制させ、細胞アポトーシスの程度、細胞内インスリン量、グルコース応答性のインスリン分泌能を検証する。そして、これら遺伝子発現修飾細胞におけるtranscriptome、proteome、metabolomeを検討し、omicsアプローチにより、その分子メカニズムを解明する。 さらに、XOR遺伝子を発現修飾させた3T3-L1細胞およびMIN6細胞の両者において、3種のMAPK経路蛋白活性の変化や、mTOR経路蛋白およびインスリンシグナル伝達経路蛋白の変化について詳細に検討し、MAPK・mTOR・インスリンシグナル伝達経路へのXORの関与を明らかにする。 細胞レベルでのXOR作用の重要性を確認できた後は、脂肪細胞または膵β細胞特異的にXOR蛋白を発現修飾させたマウスを作成し、個体レベルでの、脂肪細胞および膵β細胞におけるXOR作用の重要性を明らかにする。
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