2020 Fiscal Year Research-status Report
Elucidation of the overall mechanism of metabolic syndrome by high-precision comprehensive protein quantification
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20K11616
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
永井 宏平 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (70500578)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岸田 邦博 近畿大学, 生物理工学部, 准教授 (30412703)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 定量プロテオミクス / 肥満 / メタボリックシンドローム / 肝臓 / 質量分析 / SWATH |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、脂肪と糖質の割合のみが異なる普通食(ND)と高脂肪食(HFD)をC57BL/6Jマウスに5週間摂取させて肥満誘導させ、16時間の絶食の後に採血と肝臓、脂肪組織、小腸組織の採取を行った。HFD群ではND群と比べて、最終日体重、精巣周囲脂肪重量、空腹時血糖値が有意に増加したが、肝臓重量や血中や肝臓中脂質の量は差が見られず、極初期のメタボリックシンドロームの状態にあることが示唆された。 次に、絶食後の肝臓中のタンパク質をnanoLCを接続したTripleTOF型質量分析計を用いたSWATH法によって解析し、網羅的な定量プロファイルを取得した。全部で738種類のタンパク質が定量され、HFD―ND群間で121個のタンパク質が有意な差を示した。絶食時には、脂肪組織から流入した脂肪の分解、アセチルCoAからのケトン体の合成、TCA回路の抑制と解糖系の更新などが起こることが知られているが、HFD群ではND群に比べて、①脂肪酸のβ酸化、②ケトン体やコレステロールの合成に関わる酵素の量が増加した。一方、①脂肪酸合成、②TCA回路、③糖新生経路にかかわる酵素の量が減少したことが示唆された。このうち、脂肪酸合成に関わるAcly, 糖新生に関わるGot1, Pck1については、western blotによってもHFD摂取によって減少することが確認された。一般的に、Ⅱ型糖尿病患者ではインスリン抵抗性により、グリコーゲンの蓄積が進まず糖新生が亢進することが報告されている。しかし、今回の結果より極初期のメタボリックシンドロームでは逆に糖新生の進行が抑制されており、脂肪分解で生じたグリセロールからピルビン酸に至る経路上の代謝物が蓄積している可能性が考えられた。また、HFD群とND群で2倍以上増加しているタンパク質の中には、これまでに肥満との関係が報告されていないタンパク質が検出された。今後は、これらタンパク質と肥満との関係について検証する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定通り5週間の高脂肪食誘導肥満マウスの肝臓のプロテオーム解析を遂行し、「ごく初期のメタボリックシンドロームにおける糖新生の抑制」、そして新規肥満関連タンパク質の発見という新しい知見を得られた。そのため、「概ね順調に進展している」と判断した。また、今回、肥満マウスの臓器のタンパク質定量プロファイルを解析する方法を確立できたことから、今後の展開もスムーズに進行できると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、昨年度行った動物実験でまだ解析していない脂肪組織の定量プロテオミクス解析を行い、高脂肪食(HFD)群と普通食(ND)群との比較を行う。 また、昨年度の動物試験は絶食状態でのタンパク質発現プロファイルの解析であったので、今年度は、最終日に絶食を行う代わりに、両群共に16時間の普通食摂取をさせて条件をそろえた後に臓器を採取し、餌摂食時のタンパク質定量解析を行う予定である。以上の実験から得られた仮説をウエスタンブロットやqPCRを用いて検証を試みる。得られた結果をまとめて、「極初期のメタボリックシンドロームにおける臓器の定量プロテオミクス」として学会発表や論文発表を行う。 更に、高脂肪食の摂取期間をのばした実験も実施することで、臓器のタンパク質プロファイルの経時的な変更を行う実験も順次進めていく予定である。また、発見された新規肥満関連タンパク質因子については、脂肪細胞や肝細胞などの細胞株を用いた実験系で肥満との関連を明らかにする予定である。
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Causes of Carryover |
令和2年度の前半に、COVID-19の感染対策のために、動物実験飼育室の使用に制限がかけられたために、研究分担者の岸田によって実施が予定されていた動物実験を実施できなかった。そのため、執行しなかった動物実験に関わる物品(マウス、飼料、生化学検査キット)の費用を令和3年度に繰り越した。 中断していた動物実験は令和3年度の前半に実施する予定である。
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