2020 Fiscal Year Research-status Report
細胞老化の成因とストレスの影響も考慮した細胞老化随伴分泌現象を緩和する方法の探索
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20K11627
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Research Institution | Prefectural University of Hiroshima |
Principal Investigator |
齋藤 靖和 県立広島大学, 生物資源科学部, 教授 (90405514)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 細胞老化 / 細胞老化随伴分泌現象(SASP) / Senolysis / Senostatics / 線維芽細胞 / スチルベノイド |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトを構成する細胞の一部は加齢に伴い老化し、老化細胞として体内に残存・蓄積する。申請者らはこれまでに細胞老化に伴い細胞の性質が大きく変わることを見出し、その一例として、細胞内酸化ストレスの増加や周囲の非老化細胞への加齢性変化の誘導など様々な影響を及ぼすことを明らかにしてきた。さらに近年、老化細胞の除去や制御がヒトの加齢性疾患の低減や改善につながる可能性を秘めていることが相次いで報告されるにつれ、老化細胞は新規創薬ターゲットとして急速に注目を集めている。そこで本研究では、“老化細胞制御という視点からの健康増進・疾病予防”、つまり、老化細胞制御法の探求による加齢性疾患予防や健康増進へ向けた基礎的知見の蓄積を目標として定めた。計画初年度にあたる本年では、ヒト線維芽細胞をモデルに①細胞老化の成因による(Senescence-Associated Secretory Phenotype:SASP)発現の違い、②老化細胞特異的除去(Senolysis)作用を示す化合物の探索、③SASP制御に有効な(Senostatics)化合物の探索という3つのテーマを並行して進めた。まず①については、ヒト線維芽細胞TIG-1において酸化ストレスおよび接触阻害という2つの方法を用いて人為的な細胞老化の誘導を試み、複製老化との違いについてリアルタイムPCRを用いた発現遺伝子解析による検証を行った。次に②については、天然物由来の8化合物について、非老化細胞と老化細胞間でのそれぞれの化合物感受性の違いについて、比較・検討を行った。さらに③については、天然物由来の9化合物についてリアルタイムPCRを用いた発現遺伝子解析検討を進め、非老化細胞と老化細胞間でのSenescence-associated β-galactosidase(SA-βgal)活性への影響などについても検討を行っているところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
老化細胞を除去するSenolysisやSASPによる悪影響を緩和するSenostaticsの実現は加齢性疾患のリスクや病気の進展を低減するための有効な方法であると考えられているが、まだ不明な点が多く、臨床応用への有効性や安全性評価の障害となっている。そこで、本研究では未だ明らかにされていない①細胞老化の成因によるSASP発現の違い、②外部ストレス(老化細胞の周辺環境)がSASP発現に与える影響の解明、③SASP制御に有効な物質の探索の3つについて明らかにすることを計画している。初年度は、まず①として、細胞の分裂の繰り返しによる複製老化とストレス曝露等による早期細胞老化の2つの老化細胞の成因に着目し、細胞が老化する契機・原因によって分泌されるSASPの種類や量に違いが生じるかどうか検討した。ストレス曝露による早期老化細胞については、非老化細胞に対する過酸化水素による人為的な細胞老化誘導について検討を進めたものの、安定した結果が得られなかった。そこで、普遍的な現象解明の材料としては厳しいと判断し、次に接触阻害による老化誘導モデルを構築し、SA-βgal染色による細胞老化の評価とリアルタイムPCRによる老化関連遺伝子を含む25遺伝子の解析比較を行った。その結果,複製老化と接触老化細胞間に一部類似性は認められるものの,同様の性質を有するわけではないことが明らかとなった。②については初年度、未実施である。③については、Senolysisの検討を新たに追加し、以前より着目していた天然物由来の化合物8種についてSenolysis作用を示す可能性のある化合物の検討を進めている。また、SASP制御に有効な物質の探索についても並行して検討を進めており、以前より絞り込んでいた天然物由来の9化合物の中からSenostatics作用を有するものを見出しつつあるところである。
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Strategy for Future Research Activity |
検討2年目となる令和3年度では、①細胞老化の成因によるSASP発現の違いについては、ストレス誘導性の細胞老化方法について引き続き検討を行い、既知の報告なども参考に安定的な老化様細胞の作出を目指す。初年度の結果から、安定的な老化細胞の作出、調整が困難な場合も予測されるため、その場合には、②外部ストレス(老化細胞の周辺環境)がSASP発現に与える影響の解明、③SASP制御に有効な物質の探索を中心に検討を進めていくなど柔軟に対応していきたいと考えている。また、初年度未着手であった②についても検討を開始する予定である。具体的には、申請者が得意とする酸化ストレス曝露、光ストレス曝露により、老化細胞からのSASP発現や細胞機能がどのような影響を受けるのか、その制御は可能なのかなどについてリアルタイムPCR等を使って解析を進めていく予定である。続いて③に関しては、当初の予定(R3から着手)よりも前倒しで検討が進んでいる状況であるため、初年度の結果を足がかりにさらに検討を進め、SenolysisoあるいはSenostatics作用を示す化合物を絞り込むと同時に、その最適条件やメカニズムについても解析を進めていきたいと考えている。また現在、Senostatics作用については、SASP関連遺伝子を中心にスクリーニングをしていく形で検討しているが、次年度は、検討遺伝子をさらに広げ、SASP以外の遺伝子発現への影響などについて調査することも計画に入れ、Senostaticsのメカニズムの一端が明らかになるのではないかと期待している。さらにこれらの検討に加え、老化細胞の非老化細胞化の可能性などについても検討を進め、加齢性疾患予防・健康増進への応用につながる基礎的知見の蓄積に取り組んでいきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
キャンペーンや割引等により生じた差額により次年度使用額が生じている。次年度も適宜節約に努め、有効的に予算を執行する計画である。
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Research Products
(7 results)