2020 Fiscal Year Research-status Report
「食と栄養」が脳機能に及ぼす影響ー神経新生とエピジェネティクスを指標とした解析ー
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20K11637
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Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
矢部 武士 摂南大学, 薬学部, 教授 (40239835)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
荒木 良太 摂南大学, 薬学部, 講師 (90710682)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 葉酸 / 神経新生 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの検討から幼若期より葉酸欠乏食を6週間摂取したマウスで、①うつ様行動の出現、②海馬歯状回で神経新生の異常や総メチル化DNA量の減少などが生じることを見出している。葉酸欠乏マウスでは、未熟新生神経細胞数が増加しているにもかかわらず新生成熟ニューロン数が減少していたことから、葉酸欠乏は「新生ニューロンの成熟過程に障害」をもたらすものと推定している。そこで今年度は、葉酸欠乏が神経細胞の分化・成熟やDNAメチル化に与える影響をより詳細に検討するために、葉酸欠乏条件下で培養した神経系前駆細胞を用いて検討をおこなった。まずin vitro実験系において、葉酸欠乏マウスの海馬歯状回で観察されたニューロンの成熟異常を再現できるかどうかを確認するために、葉酸欠乏培地中で1、3、7日間分化させた培養神経幹細胞におけるTuj1陽性細胞数およびMAP2陽性細胞数を評価した。その結果、分化1日目、3日目ではTuj1陽性細胞数およびMAP2陽性細胞数に変化は見られなかったが、分化7日間では葉酸欠乏条件下で分化させた細胞においてTuj1陽性細胞数の有意な増加とMAP2陽性細胞数の有意な減少が観察された。また、分化1日目、3日目、7日目のいずれにおいても、葉酸欠乏条件はGFAP, アストロサイトマーカー陽性細胞数に影響を及ぼさなかった。なお、DAPIにより染色された核の形態を指標として細胞の生存率を評価したところ、対照条件と葉酸欠乏条件で細胞の生存率に違いはみられなかった。本結果は、葉酸欠乏によりニューロンへの分化が促進される一方で、ニューロンの成熟が抑制されることを示唆しており、in vitro実験系においても、葉酸欠乏マウスの海馬歯状回で観察されたような新生ニューロン成熟異常を再現することができたものと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
葉酸欠乏の神経新生への影響について培養細胞を用いた解析については、概ね順調に進行している。①ニューロン分化・成熟関連遺伝子群のmRNA発現に対する葉酸欠乏の影響 ②ニューロン分化・成熟関連遺伝子群のDNAメチル化およびヒストンメチル化に対する葉酸欠乏の影響などについても解析が進行しており、Neurog1やEomesについては、DNAメチル化のの変動mRNA発現量の変動に相関性を見出している。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の解析では、葉酸欠乏条件下における培養神経幹細胞を用いて、葉酸欠乏性のニューロン成熟異常にDNAの低メチル化を起因とするニューロン分化・成熟関連遺伝子の発現変動が関与する可能性を見出した。DNAのメチル化反応では、DNAメチル基転移酵素の触媒によりメチル基供与体であるSAMからCpG部位のシトシンにメチル基が付加されることが知られている。令和3年度は、葉酸欠乏性うつ症状に対するSAMの影響を評価するために、SAMの投与が葉酸欠乏性のニューロン成熟異常、ニューロン分化・成熟関連遺伝子の発現変動およびうつ様行動が改善するか否かを検討する。
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Causes of Carryover |
免疫組織化学的解析に用いる抗体や細胞培養に用いる血清など高額の試薬について、前年度までに購入したものを利用したため請求額に比べ使用額が少なくなった。またコロナ禍の影響でマンパワーが不足し、動物実験にまで手が回らなかった。今年度は、これらの試薬の購入が必要となることや実験動物の購入費用があるため請求通りの使用額となることが見込まれる。
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