2021 Fiscal Year Research-status Report
「食と栄養」が脳機能に及ぼす影響ー神経新生とエピジェネティクスを指標とした解析ー
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20K11637
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Research Institution | Setsunan University |
Principal Investigator |
矢部 武士 摂南大学, 薬学部, 教授 (40239835)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
荒木 良太 摂南大学, 薬学部, 講師 (90710682)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 葉酸欠乏 / うつ様症状 / エピゲノム修飾 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの検討から幼若期より葉酸欠乏食を6週間摂取したマウスで、1うつ様行動の出現、2海馬歯状回で神経新生の異常や総メチル化DNA量の減少などが生じることを見出している。また、葉酸欠乏が神経細胞の分化・成熟やDNAメチル化に与える影響をより詳細に検討するために、葉酸欠乏条件下で培養した神経系前駆細胞を用いて検討をおこない、in vitro実験系においても、葉酸欠乏マウスの海馬歯状回で観察されたような新生ニューロン成熟異常を再現することができた。 葉酸は生体内において、遺伝子発現制御を担うDNAやヒストンのメチル化のようなエピゲノム修飾の一端を担っていることから、葉酸欠乏によるエピゲノム修飾の異常が神経分化成熟関連遺伝子の発現変動を引き起こしているものと考えられる。そこで今年度の解析では、葉酸欠乏条件下における培養神経幹細胞のメチル化シトシン量とメチルヒストンH3量を解析した結果、葉酸欠乏条件下では全ゲノム中においてメチル化シトシン量およびヒストンH3の27番目のリジンのトリメチル化 (H3K27me3) 量の減少が見られた。また、次に、葉酸欠乏により発現変動が見られた遺伝子について転写開始点付近におけるDNAメチル化状態およびヒストンメチル化状態を解析した結果、神経系前駆細胞からニューロンへの分化に関与する遺伝子であるNeurog1とEomesでは、メチル化シトシン量が有意に低下減少しており、mRNA発現変動とDNAメチル化変動との間に相関性が見られた。以上の結果から、葉酸欠乏による新生ニューロンの成熟異常にエピゲノム修飾の異常、特にDNAの低メチル化に起因する神経分化・成熟関連遺伝子群の発現変動が関与する可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
葉酸欠乏の神経新生への影響について培養細胞を用いて解析をおこない、1ニューロン分化・成熟関連遺伝子群のmRNA発現に対する葉酸欠乏の影響、2ニューロン分化・成熟関連遺伝子群のDNAメチル化およびヒストンメチル化に対する葉酸欠乏の影響などについても解析が終了し、 葉酸欠乏による遺伝子発現変動とDNAやヒストンのメチル化の変動に相関性を見出ことができた。一方、葉酸欠乏マウスに対するSAM補充の効果に関する検討については、SAM投与量の予備的解析等の条件検討にとどまった。
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Strategy for Future Research Activity |
食事により摂取された葉酸は生体内で代謝を受け、テトラヒドロ葉酸へと変換されることでメチル基供与体 であるS-アデノシルメチオニン (SAM) の生合成に関与している。したがって、葉酸欠乏によるSAM生合成の低下がエピゲノム修飾の変動を招き、その結果として新生ニューロンの成熟異常やうつ様行動が誘発されるものと推定される。 今年度は、葉酸欠乏により誘発される新生ニューロンの成熟異常や行動異常に対してSAMの投与が改善効果を示すか否かを検討する。
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Causes of Carryover |
当初計画では、動物実験をメインに行う予定であったが、進捗が少々遅れたため。
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