2020 Fiscal Year Research-status Report
妊娠期ビタミンD摂取量と児の将来の生活習慣病の発症リスクとの関連性の検討
Project/Area Number |
20K11663
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
舟橋 伸昭 東京工業大学, 生命理工学院, 研究員 (30727491)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 生活習慣病 / DOHaD / AMPK / ビタミンD / 胎盤 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、日本では、低出生体重児の頻度が約10%と増加傾向にある。またDevelopmental Origins of Health and Disease (DOHaD) 説では低出生体重児は2型糖尿病をはじめ、様々な生活習慣病の発症リスクを高めるとされている。これらのことから、将来、生活習慣病の増加が危惧されている。しかし、母体栄養と、出生体重を含む児にもたらす影響との関連の分子的機序は、一部エピゲノムの関与が想定されるものの、ほとんど明らかでない。申請者らはこれまでに、独自の母子コホートパネルを用いた検討から、母体の血中ビタミンD (VD) と胎盤のリン酸化AMP kinase (AMPK) 量、リン酸化AMPK量と児の出生体重、胎盤重量とに、それぞれ正の相関関係があることを見出している。また、児の出生体重、胎盤重量が高い3検体、低い3検体の胎盤を用いた網羅的遺伝子発現解析を行っており、胎盤重量、出生体重が高いと胎盤のSPXの発現量が増加し、胎盤重量、出生体重が低いと胎盤のHIF3Aの発現量が増加することなど、特徴的な遺伝子発現パターンを見出しているが、胎盤の遺伝子発現のどの部分がVDやAMPK活性化によって制御されているかは不明である。 そこで今回、我々は、母体栄養素のうち血中VD、胎盤の栄養状態指標としてリン酸化AMPK量に注目し、胎盤のモデル細胞のヒト絨毛ガン細胞株BeWoにAMPK活性化剤のAICARで刺激を行い、各遺伝子の発現量への影響を検討した。その結果、AICAR刺激によりSPXの発現量が有意に増加し、HIF3Aの発現量が減少した。従って、胎盤重量、出生体重が高い母体の胎盤においてAMPKの活性化により、SPXの発現を増加させ、HIF3Aの発現を低下させていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
初年度には、胎盤のモデル細胞として汎用されているヒト絨毛ガン細胞株BeWoを用いて、AMPK活性化剤AICAR刺激により、SPX、HIF3Aの発現量に影響を及ぼすことが示された。これらの遺伝子は、これまでに我々が明らかにした胎盤重量、出生体重に関連する遺伝子であった。従って、母体の胎盤のAMPKの活性化により、SPXの発現を増加させ、HIF3Aの発現を低下させていることが明らかとなった。 しかしながら,新型コロナウイルス感染症の影響などにより初年度に計画していたAICAR刺激や、1,25(OH)2D3刺激したBeWoを用いた網羅的遺伝子発現解析などを進めることができなかった。従って,今回の進捗状況は「やや遅れている」と評価した.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、初年度の計画に入っていて出来なかった分も含めて研究を推進する予定である。具体的には、以下の通りである。 ① AICAR刺激をしたBeWoを用いて、マイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を行う。 ② 1,25(OH)2D3刺激したBeWoを用いて、マイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を行う。 ③ VD投与あるいはVD欠乏マウス由来の胎盤、仔マウスの出生体重および表現型解析を行う。そのために、1,25(OH)2D3を経口投与したマウスあるいは、VD欠乏の食餌を用いたマウスについて、胎盤重量、胎盤のリン酸化AMPK量、仔マウスの出生体重を検討する。 ④ VD投与あるいはVD欠乏マウスの仔マウスを用いて、高脂肪食による肥満モデルを作製し、体重、インスリン分泌能、血糖値など主に糖代謝に関連する表現型を検討する。また妊娠期VD投与の影響を受ける臓器として仔マウス膵島に注目し、そのメカニズムとしてエピゲノム変化とそれに伴う遺伝子発現変化を考え、各仔マウス由来の膵島について、マイクロアレイを用いた網羅的遺伝子発現、網羅的DNAメチル化解析を行う。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響により、2020年度に計画していたマイクロアレイなどの実験を実施することができなかった。従って、2020年度に必要なマイクロアレイやその関連試薬などを購入しなかったために、次年度に繰り越すこととなった。そこで、2021年度には、2020年度に実施できなかった実験を含めて研究を推進していく計画である。
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