2020 Fiscal Year Research-status Report
Discovery of new graph invariants to capture the cycle ctructure
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20K11684
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
斎藤 明 日本大学, 文理学部, 教授 (90186924)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | グラフ / ハミルトンサイクル / 次数 / パス / サイクル |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はグラフのサイクル構造を捉える不変量を得るために、全域部分2部グラフの考察を行った。以後 G を対象となるグラフ、n をその位数とする。また G がハミルトンサイクルをもつとき、G はハミルトンであるという。Ore の定理により、G の次数和が n 以上ならば、G はハミルトンである。この結果は次数和の下界について最良である。一方拡張された Moon-Moser の定理により、2つの部集合の位数が等しい位数 n の2部グラフ G の次数和が n/2 以上あれば、特殊な例外をのぞき G はハミルトンである。両者の定理ではハミルトン性に必要とされる次数和が大きく異なる。この理由を調べた。 研究代表者は、以前別の研究文脈から n が偶数の場合、次数和が n 以上あれば、G は部集合の位数が等しく次数和が n/2 以上である2部グラフを全域部分グラフにもつことを示した。しかし奇位数の2部グラフはハミルトン性を持ち得ず、従って奇位数のグラフに同様の帰結を得ることはできない。 そこで探索対象を変えたとところ、以下の結果を得た。 定理1 H を部集合 X, Y をもつ2部グラフとする。もし |Y|=|X|+1 であり、H の次数和が |Y| 以上あれば、特殊な例外を除き、Y の任意の相異なる2頂点について、それらを端点とするハミルトンパスが存在する。 定理2 n を 5以上の奇数、G を位数 n, 次数和 n 以上のグラフとする。すると G の頂点集合を |Y|=|X|+1 となるような集合 X, Y に分割し、X, Y を部集合にもちかつ次数和が |Y| 以上となるような G の全域2部グラフが存在し、かつ Y の中に少なくとも1本の辺が存在するようにできる。 これらの定理により、Ore の定理と Moon-Moser 定理の関係を明らかにすることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
G を対象とするグラフ、n を G の位数とする。G の次数和が n 以上あれば、 G がハミルトンであることは、 Ore の定理として古くから知られていた。本年度の研究は、その理由がハミルトン性、またはそれに近い性質をもつ全域部分2部グラフによることを明らかにした。この知見は n が偶数の場合には既に得られていたが、 n が奇数の場合には、G がハミルトン性をもつ全域2部グラフを持ち得ないので、同様の知見は得られないと考えられてきた。しかし本年度の研究で探索する対象をハミルトンパスに替えることで、この壁を乗り越えることができた。これで n が偶数、奇数両方の場合がそろい、研究を前進させるピースがそろった。 本研究を申請した当時、問題の鍵を握るのはグラフの中に誘導部分グラフとして存在するスター(誘導スター)ではないかと予想していた。2部グラフは至る所に誘導スターを含むので、まず2部グラフを研究の例題と位置づけて調べた。ところが研究を進めるにつれ、全域部分2部グラフという大域的な構造の方が局所的な誘導スターよりも本質的であることが分かってきた。代表者にとっては意外な展開であり、今後の研究の方向性を明確にする重要な知見となった。 とはいえ、この知見は代表者に多くの課題を与える。今回の結果では G の次数和を位数 n 以上と仮定している。この仮定の下では G はハミルトンなので、当初の目的である「ハミルトン性の予兆を捉える」状況になっていない。予兆を捉えるためには、次数和の下界を n 未満に設定した上で、G の中に含まれる特徴的な全域部分2部グラフを見つけなければならない。それには現在の証明はまだ力不足である。より多くの観察を積み重ねて、今の証明手法を強化する必要がある。 以上のように、本年度の研究により、研究は当初の予想を超えた広がりを見せ、一方それに伴う課題を見つけることとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
ここでも G を対象となるグラフ、n をその位数とする。研究の進捗状況でも述べたように、G の次数和が n 以上あれば、G はハミルトンであるが、その理由は G が Moon-Moser の定理によりハミルトン性を保証された全域部分2部グラフ H をもつため(n が偶数の場合)、または G が大きい方の部集合の任意の相異なる2頂点間にハミルトンパスをもつような全域部分2部グラフ H をもち、さらに H の大きい方の部集合の頂点を結ぶ辺が G に存在するため (n が奇数の時) であった。しかしこの結果では次数和の下界を n に設定している。この下界を n 未満の値に設定して、ハミルトンサイクルが現れる前駆現象を捉えることが当面の課題となる。 現在の証明は (1) G の局所構造に関する観察から様々な不等式を得る。また各不等式について、等号が成立する状況を明らかにする、(2) その上で「次数和が n 以上」という情報を投入すると、ステップ(1) で得られた不等式で等号が成立することを示す、(3) ステップ(1)の不等式において等号が成立する場合に得られる局所構造の情報を大域構造に組み上げる、という3つのステップからなる。このタイプの証明は条件の緩和に脆い。例えばステップ(2)の不等式をわずかに緩和すると、ステップ(1)における「等号成立」の条件が「ほぼ等号成立」という形に置き換わり、得られる局所構造の情報にわずかな揺らぎが生じる。これらの1つ1つはわずかな揺らぎであっても、ステップ(3)で大域構造に組み上げる際には、それら全体が大きな揺らぎとなって、議論を制御不能としてしまう。 議論を制御可能なレベルに押し込めて証明を完遂させるためには、ステップ(2)の緩和を連続的に変化させて、ステップ(1)における揺らぎの様子を観察し、法則性を見極める必要がある。まずはこの方針で研究を進める。
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Causes of Carryover |
本年度は研究初年度として、研究情報収集に多くのエフォートを割く予定であった。理論研究として国内外の研究者と顔を合わせて長時間議論を交わすため、多くの旅費を計上した。また電子的なアクセスができない国際会議録を入手するため、備品費も計上した。 しかしコロナ禍により、これらの使用が封じられてしまった。すべての出張は禁止され、旅費の使用は全くなくなった。また海外図書取次業者からは業務縮小を理由に国際会議録の注文を断られた。このため、予算の使用計画は大幅な変更を迫られた。当初次年度に予定していたパーソナルコンピュータの導入を本年度に前倒しした。また計算機実験を効率化するため、当初の予定していたものよりも処理速度の速い機種を導入した。こうした計画の変更によっても、結果として 149,864円の残が生じた。 次年度も当初予定したとおりに旅費を使用できるかどうかは依然不透明である。しかし海外図書取次業者の業務は復活しており、予定していた国際会議録の購入は次年度に実行を予定している。次年度も旅費の使用が難しい場合には、国際会議録購入を増やす、あるいは旅費使用を最終年度に増やすことを検討している。
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Research Products
(8 results)