2020 Fiscal Year Research-status Report
空間周波数が潜在的な感覚に与える影響と関連する大脳神経活動の評価
Project/Area Number |
20K12031
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Research Institution | Tohoku Gakuin University |
Principal Investigator |
加藤 和夫 東北学院大学, 工学部, 教授 (60416609)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
門倉 博之 東北学院大学, 工学部, 准教授 (50805497)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 空間周波数 / 潜在的感覚 / 大脳神経活動 / 脳波 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,建物外観や室内デザインなどに存在する空間周波数特性に着目する.空間周波数パターンは,それ自体は目立たなく顕在的には中立な印象を受けると予想されるが,1/fゆらぎが快適感を与えるといった例のように潜在的な人間感覚を誘起する可能性がある. この心理的・生理的な影響については,詳細には解明されていないため,本研究では空間周波数特性が(1) 観察者の潜在的な心的活動に与える影響の評価と(2) 関連する大脳神経活動を明らかにすることを目的とする.特に,カテゴリー判別に要する反応時間を用いて潜在的な意識を測定する潜在的連合タスク(IAT)を用いた先行研究(基盤研究C,平成29年度~令和元年度)の結果を踏まえ,空間周波数が能動的に潜在的意識の活動を賦活させる新たなIATの実験デザインを導入する. まず2020年度では,予定していた新たな実験デザインを用いた被験者実験を始める前に,先行研究の実験データに対し,新たな解析方法の導入を試み,その有効性について評価を行った.心的活動の評価については,先行研究で行った空間周波数の高低から得られたIAT得点の単純な比較ではなく,参照実験のIAT得点に対する変化分で評価する方法に変更した.また脳波については,先行研究では画像呈示を基準に脳波データの解析を行っていたが,反応時間が被験者によりばらつきがあるため,試行毎のボタン押し時刻を基準にする方法に変更した.このように先行研究の実験結果を新たな方法で評価することにより,新たな知見が得られた(具体的な成果については現在までの進捗状況に記述する).さらに,これらの方法は,2021年度以降実施が予定される被験者実験でも利用することができ,従来方法より空間周波数の潜在的な心的活動や大脳神経活動を評価できる強力な解析方法になると考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実施計画のフェーズ1(令和2年度~3年度)において,先行研究におけるIATを改良し,より空間周波数が能動的に潜在的意識を賦活させる実験デザインを試みる予定をしている.2020年度は,研究実績の概要に述べたようにまず先行研究の実験データに対し新たな解析方法の導入を試みた. 心的活動の評価については,先行研究では高空間周波数と低空間周波数背景のIAT得点の直接比較を行っていたが,明確な差異が見られなかった.そこで2020年度では,各背景のIAT得点から,参照実験である単色背景のIAT得点を差分し,その絶対値を算出した.次に,被験者10名で差分絶対値を平均すると,高空間周波数では0.335,低空間周波数では0.462の変化が見られた.この結果より,低空間周波数背景が潜在的意識へ影響を与える可能性が大きいと推察された.次に,脳波については,先行研究では画像呈示を基準に解析を行っていたが,ターゲット画像と特性語間の連合の強弱に有意差が見られなかった.これは反応時間が被験者や試行毎によりばらつきがあるためと推察されたため,試行毎のボタン押し時刻を基準にする方法に変更した.その結果,低空間周波数の場合,ボタン押しから -134 ms,および -458 msにおいて,連合の強弱に有意差が見られ,それぞれ中前頭回,および上前頭回の活動が確認された.この結果は,IAT得点の差分絶対値が高空間周波数より低空間周波数で大きいことを考慮すると,低空間周波数が潜在的意識に関わる神経活動に大きく関与していると考察できた.また,IATの新たな実験デザインについても,画像作成等の準備は概ね完了した. このように2020年度の進捗状況は,研究実施計画に記載した改良したIATデザインを用いた脳波実験に対する準備が進み,さらに新たな解析方法の進捗が見られたため「おおむね順調に進展している」と判断する.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では,研究実施計画の予定通り,フェーズ1(令和2年度~3年度)において,先行研究におけるIATを改良し,より空間周波数が能動的に潜在的意識を賦活させる実験デザインを用いた被験者実験を試みる. 先行研究では,IATにおけるターゲット画像を「四角形」「菱形」として,その背景に空間周波数を有する格子画像を配置した実験を行い,空間周波数が間接的にターゲット概念に与える影響を評価した.しかし,この実験では空間周波数の観点において,背景とターゲット画像の線の重なりやターゲット画像自体が空間周波数を有しているため,互いに影響を及ぼし背景の空間周波数の影響を正しく評価できないのはないかとの指摘を受け,変更の必要があった.そこで,ターゲット概念を単純画像である円形と三角形とし,背景に空間周波数特性を考慮した縦縞様の画像を配置することにより,先行研究の問題点を解決できると考えている.これに対し現状,画像作成は概ね完了している.今後は被験者を用いたIAT実験,および同時に脳波測定を行い,2020年度の研究成果である新たな解析方法を用いたIAT得点の変化,および脳波解析を実施する予定である.特に脳波については,ターゲット画像と特性語間の連合が強い場合と弱い場合に区別して,事象関連電位,事象関連同期/脱同期,また信号源推定等解析方法の観点から検討を行う.これにより,空間周波数が潜在的な人間感覚に関わる大脳神経活動を評価する. さらに,フェーズ2(令和3年度~4年度)においては,実空間を想定したターゲット画像を配置し,背景空間周波数画像の有無によるIAT得点の変化や大脳神経活動を評価する.ターゲット画像には,建物デザイン,非常口サイン,人物などが候補に挙げられる.これら実空間における空間周波数の影響を評価でき,成果の応用展開への貢献が期待できる.
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由として,2020年度は参加した学会がコロナ禍の影響によりオンラインで開催されたため,現地までの旅費や宿泊代が不要になったことと研究の進捗に合わせて脳波電極の購入を次年度に先送したことが主な理由として挙げられる.2021年度以降は,(コロナ禍の状況次第であるが)情報収集や成果発表のための学会参加に必要となる旅費や脳波測定のための電極の購入を計画している.
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