2021 Fiscal Year Research-status Report
Reverse Engineering of Connectome: Elucidating Brain Information Processing Architecture by Network Analysis
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20K12060
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岡本 洋 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特任研究員 (00374067)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | コネクトーム / 複雑ネットワーク / 機能モジュール / コミュニティ / 重なり / 階層性 / べき分布 / 深層ニューラルネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
【本研究の目的】高解像マウスコネクトームから脳情報処理様式を導出する。 【方法】コネクトームのリバースエンジニアリング:コネクトームの構造に潜在的に表現された脳情報処理の機能構成を、ネットワーク分析を用いて推定する。特に、その機能構造がマクロレベルではある程度まで知られている視覚野に注目する。ネットワーク分析によるミクロレベルからのアプローチに基づき、マウス視覚野の機能構成を明らかにする。 【令和3年度研究の成果】 「マルコフ連鎖モジュール分解(Modular decomposition of Markov chain, MDMC)」は、本研究に先立って研究代表者が考案したネットワーク分析の方法であり、コネクトームのリバースエンジニアリングを実行する上での核となる。MDMCにより、以下の効果が期待される。(1)脳情報処理の機能モジュールは、遍在的なコミュニティ構造(明確な境界を持たない塊構造)として表現される。MDMCは、ネットワークからコミュニティを遍在的構造物として抽出できる数少ない方法の一つである。MDMCをコネクトームに適用することにより、脳情報処理の機能モジュールを明らかにできる。(2)階層構造は、脳情報処理における機能構成の本質的特徴である。MDMCはネットワークから遍在的コミュニティの階層構造を抽出するための唯一の方法である。MDMCをコネクトームに適用することにより、脳情報処理における機能の階層性を明らかにできる。 項目(1)に関する成果:高解像マウス視覚野コネクトームにおいて、腹側経路と背側経路を遍在的コミュニティとして同定した。 項目(2)に関する成果:高解像マウス視覚野コネクトームから遍在的コミュニティの階層構造を抽出し、新たに視覚野ゲートおよび腹側・背側間ブリッジと目される遍在的コミュニティを同定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、令和2年度中に、協力者との対面コミュニケーションを通じて高解像コネクトーム・データを入手する予定であったが、コロナ禍のためにこれを断念し、コネクトームのリバースエンジニアリングを方法論として構築・発展させることに注力した。令和3年度、協力者と対面で十分に打ち合わせた上で高解像コネクトーム・データをコンパイルし、それらから以下の特徴を持つマウス視覚野ネットワークを構築した:ノード数468;リンクは重みと方向を持ち、その総数は219,024;視覚野(以下の10個の区画で構成される:VISpor, VISli, VISpl, VISl, VISp, VISal, VISrl, VISa, VISpm, VISam)における各ノードの位置が所属区画で表現される。 MDMCにより、ネットワークから二つの遍在的コミュニティが抽出された。これらのコミュニティは、視覚野のゲートである一次野 (VISp) を中心として、ファジイに重なっている。一方のコミュニティは腹側に、他方のコミュニティは背側に偏る。霊長類の視覚野は、オブジェクト認識に関わる腹側経路とコンテクスト処理に関わる背側経路とに分かれていることが知られている。我々の結果は、マウス視覚野にも、霊長類視覚野と同様に、腹側・背側経路への機能分化があることを示唆する。 さらに、MDMCを用いてコミュニティの階層構造を導出した。下位層において、腹側および背側コミュニティから、それぞれ、腹側・背側間ブリッジおよび視覚野ゲートに重心を有する遍在的コミュニティが分化して現れた。なお、これらのコミュニティに対応する経路が実際のマウス視覚野に存在することが、神経科学実験から示唆されている(Wang, Gao & Burkhalter, 2011)。
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Strategy for Future Research Activity |
深層学習の多層・フィードフォワード型ニューラルネットワーク様式は、オブジェクト認識に関わる視覚野腹側経路を模していると考えられている。しかしながら、脳ネットワークの構造から直接この考えを確認する試みはこれまでなかった。令和3年度に腹側経路全体を遍在的コミュニティとして同定した。そこで、令和4年度には、このコミュニティ自体のネットワーク構造を詳しく調べる。以下を確かめる:i)このコミュニティの結線構造に多層・フィードフォワード型結合が埋め込まれているか;ii)通常の深層ニューラルネットワーク様式とどこまで似ていてiii)どこが違うか。さらに、背側経路(コンテクスト処理に関わるとされる)、腹側・背側間ブリッジおよび視覚野ゲートを表すコミュニティのネットワーク構造を調べ、信号の流れを明らかにすることにより、これらのモジュールがつかさどる機能を考察する。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、当初計画していた海外渡航を行わなかった。
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Research Products
(3 results)