2020 Fiscal Year Research-status Report
登山ヒヤリハット体験の画像化とリスク回避のセルフトレーニングによる実践知の伝承
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20K12116
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
嶌田 聡 日本大学, 工学部, 教授 (90713123)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 危険予知トレーニング / 類似画像検索 / 深層学習 / GAN / CNN / リスクマネジメント |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)ヒヤリハット体験の可視化画像の生成 登山で体験する情景は、樹林帯や稜線などの「地形」と、日照条件・霧・雨などの「状況」を合わせて表現できることに着目し、ヒヤリハット体験の理解を深められる画像の生成方法を提案した。提案方法は、利用者のイメージに近い地形画像を類似画像検索で画像データベースから選定し、状況変化を表した画像を自動生成して地形画像に反映させることでヒヤリハット体験時の情景を再現する。以下の実験を行い、提案方法の妥当性を検証した。 まず、地形画像データベースとして、ガレ場、林、岩稜、沢、稜線、道標の6種類の画像を1500枚用意し、深層学習のCNNでこれらの地形画像のカテゴリ分類を学習させて特徴量を抽出した。抽出した特徴量で類似画像検索を行った結果、適切な地形画像が得られた。次に、霧のシーンを想定して画像加工を行った。全体的に霧がある、左側に霧がかかるなど4タイプの霧画像を学習用データとして計9600枚用意し、深層学習のGANをラベル有りで学習させた。学習済のGANで画像生成するときに、初期値の潜在変数を大きく変えることで様々な状況変化画像を生成できた。地形画像に状況変化の加工を行った画像には有効な画像が含まれていることを確認した。 (2)リスク回避のセルフトレーニング方法 学習レポートのセルフチェックが行える指標として、学習のひろがりと深さを評価する特徴量を定義した。登山の初級や中級者が作成した学習レポートを分析し、これらの特徴量が学習レポートから抽出できることを検証した。学習のひろがりの特徴量は学習レポートで検討されているトピック数であり、学びの深さは、レベル1:知る(単一知識の適用)、レベル2:理解(単一の知識の適用方法を理解)、レベル3:統合(知識の統合や新しい知識を獲得)、レベル4:応用(知識統合に加え,効果的な適用方法を獲得)の4段階で評価する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1)ヒヤリハット体験の可視化画像の生成 申請時の計画では、大規模な画像データベースを構築しておけばヒヤリハット体験時に遭遇したシーンに類似した画像が存在するという前提に基づき、テキストで表現された体験記事にマッチした画像の自動選定方法を検討する予定であった。このためには、登山リスクオントロジーの概念に対応する画像であるかを判別する画像認識エンジンの確立が必須であり、様々な登山シーンを表した大量の画像が必要となる。実際に登山を行い、大量の画像を新規に収集することにしていたが、令和2年度の前期は、COVID-19対策で非常事態宣言が発出されるなどで外出が制限されていた。 そこで、小規模な画像データベースでも対応できる方法に方針を変更した。近年、敵対的生成ネットワーク(GAN)が注目されており、画像から特徴を学習することで、学習用画像の特徴に沿った変換や実在しない画像の生成の実現例が報告されている。小規模な画像データベースから選定した地形画像をベースにしてGANを用いて地形画像を加工する方針に変更し、検討や実験を繰り返した結果、ヒヤリハット体験の理解を深められる画像が生成できる可能性のある方法を提案することができた。 (2)リスク回避のセルフトレーニング方法 申請時は、熟練登山者に学習レポートを作成してもらい、学習レポートのトピックワードの出現頻度を特徴量にして利用者のレポートの点数化を行う予定であった。こちらもCOVID-19の影響で熟練登山者との対面でのヒアリングが実施できなかったので、これまでに作成された、初級や中級者の学習レポートを分析し、学習の到達度を評価する指標を検討した。その結果、学びのテーマ数と深さを表す特徴量が抽出できるところまで確認した。これらの特徴量を用いることで、自分の学習レポートをセルフチェックする方法を具体的に検討できるようになった。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)ヒヤリハット体験の可視化画像の生成 令和2年度の提案方法では、ヒヤリハット体験の可視化画像の生成を地形画像の選定と状況変化の画像化に分けることで、大規模な画像データベースを用いることなく実現することができた。また、提案方法は利用者がイメージする詳細な状況変化にも対応できる可能性がある。他者の体験を通じた学びを深化させるためには、現場の状況を共有できるように体験時の情景を細部まで表現できる画像の生成方法が求められる。これらのことから、今後は、提案方法をベースとして、さらに多様な画像が生成できる方法について検討する。令和2年度は霧による状況変化が実現できることを確認したが、日照条件や雨などの他の変化にも対応できることを検証する。さらに、状況変化として地形の変化にも対応させる。例えば、雪稜の地形画像において尾根の傾斜を急な地形に変形したい場合などである。地形画像を大量に用意するのではなく、地形の加工で対応できる方法を検討する。 (2)リスク回避のセルフトレーニング方法 他者のヒヤリハット体験を教材とした学びのプロセスや結論がまとめられた学習レポートに対し、熟練登山者が作成した模範的な学習レポートとの差異を令和2年度に抽出した特徴量を用いて可視化する。また、学習のひろがりの特徴量であるトピック数、およびトピックワードと、学びの深さの特徴量である4段階の学習レベルを、学習レポートから自動抽出できるアルゴリズムについて検討する。
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Causes of Carryover |
次年度使用が生じた理由 令和2年度の前期は、COVID-19対策で非常事態宣言が発出されるなどで外出が制限されていたため、登山で体験する様々な情景を表した大量の画像を必要としない方法に変更した。その結果、画像データの収集に予定していた旅費を使用しなかった。また、同じ理由で、熟練登山者による被験者実験を実施しなかったので、実験協力者への謝金を使用しなかった。 令和3年度の使用計画 熟練登山者による被験者実験を実施する予定である。また、深層学習を用いた実験では計算機の処理時間がかかるので、効率よく検討できるように高速処理可能なワークステーションを新規に1台、購入する予定である。
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Research Products
(2 results)