2021 Fiscal Year Research-status Report
登山ヒヤリハット体験の画像化とリスク回避のセルフトレーニングによる実践知の伝承
Project/Area Number |
20K12116
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
嶌田 聡 日本大学, 工学部, 教授 (90713123)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 危険予知トレーニング / リスクマネジメント / 深層学習 / GAN / 映像教材 / 一人称視点映像 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.ヒヤリハット体験の可視化画像生成 申請時は大規模画像データベースから自動選定するとしていたが、大量画像の収集が困難になったためベースとなる少数の画像を収集し、それを遭遇シーンに類似した画像に加工することに方針を変えている。登山シーンは、「地形」と、霧や雨などの「状況」を合わせて表現できることに着目し、「地形」や「状況」を加工する具体的な方法を検討した。 「状況」の加工は、霧のシーンを対象として次の方法でベース画像から霧のかかった動画シーンを生成できるようにした。霧のタイプ別に学習用データを用意し、深層学習のGANをラベル有りで学習しておき、GANで画像生成するときに初期値の潜在変数を変えて様々な霧の画像を生成する。そのなかから体験時に近い画像を選定してもらい、潜在変数を、選定された霧画像を生成したときの値から連続的に変化させることで動画の状況変化シーンを作成し、ベース画像と合成する。「地形」の加工は、加工したい地形に近い別の画像を取得し、加工するエリアを切り出してベースとなる画像に貼り付ける。貼り付けたエリアの境界が不自然なので画像修復技術を用いて補正する。自動補正は実現できていないが、手動で補正した加工画像を用いた教材が危険回避のセルフトレーニングに有効であることを確認し、提案方法の妥当性を検証した。 2.リスク回避のセルフトレーニング リスク回避トレーニングの教材は疑似体験しやすい登山者目線の映像が適しているので、登山活動中の一人称視点映像を収集し、山岳ガイド監修で危険要素が含まれる約20秒の区間をベースとなる画像として整備した。ヒヤリハット体験者の遭遇シーンの可視化として、ベース画像と同時にテキストで別の状況を想起するよう誘導する方法と、提案方法による加工画像で誘導した方法を比較する実験を行い、加工画像による誘導の方が危険要因の抽出に効果的であることを検証した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1.ヒヤリハット体験の可視化画像生成 ベース画像をヒヤリハット体験者の遭遇シーンに類似した画像に加工する方法として地形や状況を加工する方法を提案した。提案方法により、リスク回避のセルフトレーニングを行うための映像教材を生成する環境が実現できた。しかしながら、状況の加工は霧のシーンなど限定的であることと、地形の加工はコンピュータによる自動処理が実現できていないことの課題がある。 2.リスク回避のセルフトレーニング 実際に5回の登山を行い、登山活動中の一人称視点映像を常時記録し、各記録映像から危険要素が含まれる約20秒の区間(ベース画像)とその区間でリスクマネジメントの観点から重要となる場面(静止画)を数枚選定したものから構成される映像教材の素材を整備した。申請時に計画していた学びサイトVer.1に相当するプロトタイプとして、映像教材を視聴して危険要因を抽出し、危険ストーリーを作成して登録するプロセスからなる学びの環境を実現した。映像教材は、ヒヤリハット体験者が遭遇したシーンとして霧がかかった状況での道迷いであれば、ベース画像を提案方法で霧ありのシーンに加工したものになる。加工した教材の有効性を検証するため、霧のないベース画像を映像教材とし、霧があるという状況説明をテキストで示して学ぶ場合との比較実験行った。その他、日没直前で暗いとき、道に小石がたくさん堆積しているとき、傾斜がもっと強いときの合計4つの教材を用いて登山初心者14人による学びの結果、テキストで説明よりも加工教材の方が危険要因の抽出件数は一人当たり平均1.5件から2.3件に有意に増加した(p<0.01)。さらに、抽出された危険要因は加工教材を用いた方が現場の危険要素が具体的に描写されていた。上記の通り、提案方法で作成した映像教材を用いることでセルフトレーニングを効率よく行えることを確認した。
|
Strategy for Future Research Activity |
1.ヒヤリハット体験の可視化画像生成 「状況」の加工については、対応できる状況変化のバリエーション拡大と品質向上に取り組む。品質向上の改善点は視点移動に対応した加工である。ベース画像とした一人称視点映像は歩行による視点移動を含んでいるが、生成した霧の動画にはないことが課題である。ベース画像から視点移動を検出し、加工映像に反映させることを検討する。「地形」の加工については自動処理を実現し、効率よく映像教材を作成して学びの実験を実施できるようにする。 2.リスク回避のセルフトレーニング ベース画像をヒヤリハット体験者が遭遇したシーンに類似した画像に加工することで危険要素の抽出を効率よく行えるようになったが、抽出した危険の回避や危険に遭遇したときの対処を主体的に学べるようにすることが課題である。映像教材の作成において、疑似体験を誘導しやすいことから一人称視点映像を適用したところ、映像自体に登山者が着目している視点が表現されており、それが学びに有効活用できる可能性を見出した。さらに、映像には表現されていない登山者内部のデータを提示することは学びの深化につながると考えられる。特に、事故の多い、転倒、滑落の事例では、接地時の足圧データが有効である。申請時にはコミュニティでの協調学習で対応する予定であったが、現場シーンだけでなく、登山活動中の登山者の視線や足圧データも同時に提示することで主体的な学びを活性化させ、その後で、コミュニティの協調学習を導入することとする。
|
Causes of Carryover |
次年度使用が生じた理由 令和2年度に、COVID-19の影響で大量の登山画像の収集と熟練登山者による被験者実験を実施しなかったこと、およびヒヤリハット体験の可視化画像の生成方法の進捗が遅れたので学びサイトVer.1を研究室内での実験用プロトタイプに変更したことで次年度使用が生じた。 令和4年度の使用計画 リスク回避のセルフトレーニングにおいて、危険回避についても主体的に学べるように、現場シーンだけでなく、登山活動中の登山者の視点や足圧データも同時に提示することを検討する。 歩行中の足圧データを計測する装置は既に保有しているが、歩行映像と同期計測するためにはソフトウエアのバージョンアップが必要であるので、それに使用する。
|
Research Products
(2 results)