2020 Fiscal Year Research-status Report
海洋細菌による膜小胞を介した微生物炭素ポンプの炭素フローの解明
Project/Area Number |
20K12145
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
大森 裕子 筑波大学, 生命環境系, 助教 (80613497)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
濱 健夫 筑波大学, 生命環境系, 名誉教授 (30156385)
豊福 雅典 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (30644827)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 炭素循環 / 微生物炭素ポンプ / 膜小胞 / 海洋細菌 / 13Cトレーサー法 |
Outline of Annual Research Achievements |
海洋に存在する溶存態有機物(DOM)は、地球表層における最大級の有機炭素プールの一つであり、その90%以上は微生物分解に対して安定な「難分解性DOM」で構成され、数千年もの寿命をもつ。近年、難分解性DOMによる海洋への長期間の炭素隔離機能の概念として、「微生物炭素ポンプ」が提唱された。しかし、微生物炭素ポンプはそのプロセスの存在と重要性が示されたのみであり、海洋への炭素隔離能を正確に理解するために生成プロセスとその量的な寄与を明らかにする必要がある。本研究は、海洋細菌が生成する細胞外膜小胞(MV)が生物分解に対して安定であることに着目し、海洋細菌が生成するMVを介した微生物炭素ポンプのプロセスと炭素フローの解明を目指す。 2020年度は、海洋細菌を13C-グルコースを基質として添加した人工海水で約2か月間培養し、細菌由来のMVによって隔離される細菌由来の有機炭素を定量評価した。海洋細菌の増殖期において、MVの粒子数はほとんど変化を示さなかったが、死滅期において海洋細菌が減少するに従い、MVの粒子数は大きく増加した。この結果から、海洋細菌がファージの感染等によって溶菌する際に、細胞膜からMVが形成されることが示唆された。形成されたMVは約2ヶ月後まで残存し、海洋細菌が取り込んだグルコースの有機炭素量を100%としたとき、その9.3%がMVとして2か月後も残存することが示された。海洋細菌によるMVの形成は、微生物炭素ポンプによる難分解性DOMの形成経路の一つとして機能し、海洋中への炭素隔離に寄与する可能性が示された。培養実験は現在も継続中である。培養開始から1年後に残存するMVの炭素量を評価し、炭素隔離機構におけるMVの役割をより長期的に評価する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の一つ目の課題であった、13Cトレーサー法を用いた海洋細菌によるMV形成と残存量の定量評価を行うことが出来た。2020年度に開始した培養実験は2021年度も継続中であり、約1年に及ぶMVの残存量を評価することは、海洋中におけるMVの動態と炭素循環における役割を理解する上で重要な知見である。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、計画通りに2020年度の13Cトレーサー法を用いた海洋細菌の培養実験を継続し、MVによる長期炭素隔離機能の定量評価を行う。それと同時に、もう一つの研究課題である、MVを基質とした長期分解実験を開始し、MVの微生物分解性と分解後の行方を明らかにする。
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Causes of Carryover |
新型コロナによる実験開始時期の遅延により、使用する分析用消耗品の使用額が少なくなった。次年度に繰り越された分析に差額分を使用する予定である。
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