2023 Fiscal Year Research-status Report
非ヒストンタンパク質のアセチル化修飾が引き金となって誘導される細胞生存制御機構
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20K12177
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Research Institution | National Institutes for Quantum Science and Technology |
Principal Investigator |
安田 武嗣 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学研究所, 主幹研究員 (60332269)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 脱アセチル化 / 細胞死 / 速度論的同位体効果 / 量子 / DNA修復 / 転写 / アポトーシス / 重水 |
Outline of Annual Research Achievements |
RAD52やヒストンに対する脱アセチル化の加水分解酵素反応について、反応溶液中の水を重水にすると反応速度が低下する速度論的同位体効果を検出していた。この現象は、量子トンネル効果など量子レベルのメカニズムと関連している。この現象と関連して、細胞を重水に晒すと、相同組換え修復、1本鎖アニーリング修復、非相同末端結合修復の、複数のDNA二重鎖切断(DSB)修復が阻害された。また、重水に晒した細胞は、ヒストンアセチル化の誘導が起こった。ヒストンアセチル化は転写と関連することから、細胞の転写についてRNA-seqによる解析を行なった結果、転写レベルが上昇している遺伝子が増えていた。転写が上昇していた遺伝子には、炎症や免疫などに関連している遺伝子群が存在していた。一方、転写レベルが減少しているものには、DNA修復に関わる遺伝子群が存在していた。さらに、重水によるDSB修復のメカニズムを解析したところ、重水に晒した細胞では、ATM、53BP1、BRCA1、RAD51など修復関連タンパク質のDSB部位への局在が阻害されていた。 DSB修復は細胞の生存に重要であることから、重水に晒した細胞では細胞死が誘導された。高線量放射線によるアポトーシス誘導と比較したところ、100%の重水によるアポトーシス誘導の方が強いという結果が得られた。一方、重水を通常の水で希釈すると、約1/10の希釈で試験管内の酵素化学反応についての同位体効果が消失し、細胞死誘導に対する影響も無くなった。以上の同位体水の影響に関する研究成果は、環境問題の観点からも重要な知見である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、予定していた非ヒストンタンパク質のアセチル化修飾が引き金となって起こる反応の解析についてはやや遅れているが、関連する内容である量子レベルのメカニズムによる細胞死誘導について大いに進展して受賞したため、全体的には概ね順調に研究が進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
量子レベルのメカニズムに関して得られた研究成果を論文で報告する。細胞の生死選択性に非ヒストンタンパク質のアセチル化が与える影響について、アセチル化部位変異体を用いて解析する。
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Causes of Carryover |
研究成果を論文にするための掲載費用として使用する予定であったが、投稿論文に関してエディターのコメントによるの追加データを得るための実験が必要となり、掲載に間に合わなかった。そのため、次年度の論文掲載のための使用額が生じた。
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