2020 Fiscal Year Research-status Report
気候変動による穀物生産の不安定化が日本の食糧安全保障に与える影響の解明
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20K12191
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
吉田 龍平 福島大学, 共生システム理工学類, 准教授 (70701308)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西原 是良 早稲田大学, 地域・地域間研究機構, 次席研究員 (20714893)
高橋 大輔 拓殖大学, 政経学部, 教授 (30619812)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 気候変動 / 作物生産 |
Outline of Annual Research Achievements |
気候変動に伴う作物生産量の変化について数値モデルによるシミュレーション結果を解析した.主要4作物(コメ,ダイズ,トウモロコシ,コムギ)の収量と地上気象の関係を国別に解析し,先進国では気温が上昇しても収量はあまり低下しないものの,途上国では収量の低下の幅が先進国と比較して大きくなることを明らかにした.一方で降水量に対する応答は増加・減少で非対称であり,降水量の低下は収量を下げるものの,降水量の増加は収量を増やすとは限らないことが明らかになった.また,一般的に二酸化炭素の増加は光合成を促進して収量を増加させるが,この施肥効果は極端な高温の発生時には収量の低下を緩和することができないことが明らかになった.こうした気象変数の変動に対する収量の応答は,国内総生産GDPである程度整理される見込みである.食糧安全保障の議論では,水稲生育モデルの高度化で得られた結果を用いて,農業経営の生産額推定を行った.推定作業をコシヒカリ・ひとめぼれ・ヒノヒカリの3品種について実施した.その結果,価格を2008年段階で固定した場合,生産額は主に生産量の増加を背景として増大すること,品質低下の影響は西日本で顕著であり,稲作経営の収支に大きな地域差が出る可能性が高いこと,3つの品種は全て食味を重視した作付け品種であり,気候変化から負の影響を受ける点では大差がないことが明らかとなった.食糧安全保障の観点から持続可能な農業経営を確立するのであれば,政策的支援が必要な状況だと考えられる.特に西日本では水稲生産を継続するための農法の確立,耐熱品種の開発,土地改良等の長期的な対処策や,近年導入された収入保険の活用などの対策を考慮しなければならない.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
大規模アンサンブルデータd4PDFおよび結合モデル相互比較プロジェクトCMIP5で計算された気温と降水量のデータを収集した他,それらのデータで駆動された作物生産予測値を収集した.気温や降水量に対する4作物の収量応答について解析を進めている.日本におけるコメ生産では,コシヒカリ・ひとめぼれ・ヒノヒカリの3品種について収量と品質の変化を個別に予測し,これにコメの相対取引価格の実績値を乗じることによって生産額の推定を行った.分析によって得られた生産額の変化から農業経営の変化と対応策を考察し,取りまとめた論文を投稿した.現在査読中である.今年度は論文1報の成果が挙がっている.国内外の出張に厳しい制約がかかったことから現地に赴いてのデータ収集は滞っており,状況が改善され次第,今年度に達成できなかったデータ収集と解析を行っていく.
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Strategy for Future Research Activity |
気候変動に対する収量変動の解析を進める.農業研究開発支出の将来変化を社会経済シナリオSSPから推定し,農業研究開発に投資することで温暖化の進行による収量の低下をどの程度緩和することができるかを解析する.解析は,世界銀行で公開されている4つのincome group(high, upper middle, lower middle, low income)に整理して進める.初年度の水稲に関する気候変動影響の評価から,日本の農業経営が受ける気候変動の影響には地域差が大きいことが浮き彫りとなった.それを踏まえて,地域データベースの作成と,作況変動との関係性を考察することとする.データベースの作成をまず実施し,作況の変動から生産額の変動を緩和する収入保険制度の構築へと発展させることを考えている.
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Causes of Carryover |
学会や会合がオンラインになったため,旅費の支出が少額になり,次年度使用額が生じた.学会が現地開催で行われる場合には,旅費として使用する.
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Research Products
(1 results)