2021 Fiscal Year Research-status Report
従属栄養微生物による硫黄化合物の分解とそれに伴う腐食性ガス生成
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20K12202
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Research Institution | Independent Administrative Institution National Institutes for Cultural Heritage Tokyo National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
片山 葉子 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存科学研究センター, 客員研究員 (90165415)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 嘉則 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存科学研究センター, 室長 (50466645)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 微生物代謝 / 真菌類 / 細菌類 / 気体状硫黄化合物 / 硫化カルボニル / 微生物劣化 |
Outline of Annual Research Achievements |
気体状硫黄化合物は反応性の高いものが多く、腐食性や急性毒性などが広く知られている。一方、これらは酸化されやすく環境からは容易に除去されるため、長期的な影響は問題になりにくいとも云われる。それに対し硫化カルボニル(COS)は、地表から大気への放出量は少ないものの、安定であるため長期に渡り滞留しその影響が懸念されているが、生物を介した動態に関する情報は限られている。土壌はCOSの動態に大きく関わり土壌微生物の寄与が想定される環境の一つである。そこで土壌に広く生息する微生物に注目し、これまでほとんど報告のない細胞外にCOSを放出する真菌及び細菌について、COS放出の活性の分布並びに培養条件との相関を調べ、自然界のCOSの動態の理解につながる情報を得ることを本研究課題の目的とする。 森林土壌から分離された真菌や細菌の多くは哺乳類の致死濃度COSの存在下でもCOS分解活性を発現するのに対し、真菌のKSF9株及びKSF13株では気相へのCOS放出が確認されている。そこで、これらに近縁のMortierella属の8菌株について調べたところ、全ての菌株でCOSの放出が見られ、COS発生に関わる特定の真菌の存在が明らかとなった。この結果は、土壌を介したCOSの動態を把握する上で、COS発生を担う真菌についても広く注目する必要のあることを示すものと言える。また、古墳内部の剥離した内壁から分離された細菌株についてCOSに対する反応を調べたところ、22株中15株にCOS分解活性が確認され、通常は密閉状態にある古墳環境にもCOS分解活性を有する細菌は生息することが明らかとなった。一方、この活性を全く示さなかった菌株についてはCOS発生が見られることも考えられるため、今後はこの可能性についても調べる計画である。以上の結果、本研究課題の成果は十分に得られていると判断される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
細菌あるいは真菌によるCOSの代謝は、当初は呈色反応などを用いて行う予定であったが、濃縮加熱導入装置を備えたGC-FPDを2021年度より使えるようになり、低濃度硫黄化合物の分析のための環境が整った。これを用いて菌株保存施設から分譲された真菌株及び古墳の剥離壁画から分離された細菌株について、COSに関わる代謝活性に関するデーターを取得することができた。以上の結果、研究成果は十分に得られていると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
細胞外へのCOS高発生菌株に的をしぼり、培養条件に伴うCOS放出の特性を明らかにし、真菌におけるCOS発生の全容を明らかにする。さらに、Mortierella属以外のCOS発生真菌の分類学的な広がりについても調査を進める。また、それらの研究成果を学術論文として投稿する。
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Causes of Carryover |
本研究に使用している1菌株について、細胞成分の依頼分析を予定しその準備を進めていたが、本菌が独立栄養性のため1回の培養で僅かな菌体量しか得られず、必要な細胞の準備に時間を要した。そのため、年度内発注が出来ず次年度使用が生じた。2022年度に本依頼分析を行う予定である。2022年度は、GC-FPDでの分析に要する液化アルゴン、気体捕集用プラスチックバッグ、プラスチック製消耗品などの購入のほか、国際誌への論文掲載料に充てることを計画している。
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