2021 Fiscal Year Research-status Report
Creation of new knowledge on global warming countermeasures using domestic edible fuel biomass
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20K12247
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
鈴木 高広 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (60281747)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 光合成効率 / 多層栽培 / 甘藷 / ポリフェノール / 採光率 / 下水汚泥 / メタン / 根圏灌水栽培 |
Outline of Annual Research Achievements |
甘藷の光合成効率に対する紫外線(UV)の影響を解析するために、5月にポット鉢に定植した苗を採光率が低い場所で3か月間育て、8月から11月は採光率が高い場所に移設した結果、全期間を通し採光率が高い場所で栽培した場合よりも、茎葉も芋(塊根)も収量が増大した。一方、三層栽培棚を用いて8月まで通常日射条件で栽培を行い、9月以降の芋の肥大期にUVカットフィルムを設置し採光したところ、通常日射の場合と比べ芋の生産量に大差はなく、UVカット率による効果は認められなかった。 これらの結果は、強い日差しに含まれるUVが茎葉の増殖を抑制すると共に、UV防御剤であるポリフェノールや色素が葉に蓄積すると、可視光の吸収も妨げられるため光合成反応が抑制されることを示唆する。したがって、生育期に可視光を制限せずにUVをカットし採光すればポリフェノールの蓄積を抑えた茎葉が増殖し、芋を増産できると見込まれる。葉のポリフェノール含有率が低下すると光酸化反応による葉緑素分解速度が高まると懸念されるが、総葉量を増加した方が芋の生産量が増大することが明らかとなり、燃料作物の増産技術として新たな知見が得られた。 一方、三層栽培環境を調査したところ、日中は下層のCO2濃度が顕著に低下し、夏季は上層が過熱状態であることが明らかとなった。また、夜間は呼吸によるCO2排出量が増大していることが判明した。したがって、下層のCO2補給と上層の冷却、夜間の生育管理により、さらに増産可能であると考察された。 また、冬季も水温が15℃を維持する下水処理水を暖房熱として通水した三層灌水栽培棚をビニルフードを覆うことで、省エネ・低コストの越冬栽培が可能となった。 このように増産した芋・茎葉からメタンを量産するために、下水汚泥と芋と茎葉の混合消化反応条件を検討した結果、収穫した芋と茎葉をほぼ全量メタンに変換できることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
課題1では、採光率とUVカット率が葉の光合成機能に与える影響を解析した結果、UV防御機能が葉の増殖と光合成活性の制限要因であることを見出し、茎葉の増殖期にはUV照射率を低下させ、芋の肥大期に採光率を高める二段階栽培法が有効であることを見出した。当初計画による上層の照射光を下層に転送する方法は、栽培システムの低コスト化が困難であったが、UVによる増殖阻害が光合成収率の制限要因であることを見出したことで、太陽光を転送しなくてもUVカットフィルムにより上層の収率を低層並みに高められる可能性を見出し、新たな増産技術の創出を見込む成果となった。 課題2では、熱分布、CO2濃度分布について重要な知見が得られ、下水処理工程で発生するCO2を利用する新たな増産法を考案し、実証試験を進めている。 課題3の冬季暖房試験は、初年度の結果から下水処理水の熱交換容量を推定し、三層栽培棚に通水し温度管理を行った結果、越冬栽培に成功した。その結果、年間日射量に対する芋と茎葉のバイオマス総量の光合成収率を4%に高めることに成功した。 課題4のメタン生産に関しては、芋と茎葉と汚泥の混合率の最適条件を解析した結果、投入した芋と茎葉をほぼ全量メタンに変換できることが明らかとなった。この成果に基づき、実際の下水処理場の消化槽に芋と茎葉を投入し、メタン生産効率を高める試験を準備中である。 以上のように、太陽光のUV制限採光による芋・茎葉の増産効果、冬季の多層栽培による増産効果、芋・茎葉を全量メタン変換する各課題の目標達成を見込む成果が得られた。年間を通し生育環境を最適化することで、甘藷の光合成能力を最大限利用する低コスト操作方法も検討中である。芋・メタンの大量生産方法を確立することで、国産可食・燃料作物で化石燃料を全量代替できることを実証し、地球温暖化対策のゲームチェンジャーとなることを見込む。
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Strategy for Future Research Activity |
課題1:農業用ビニルハウスに汎用されているUVカットフィルムを用いて、葉量と葉緑素量および芋の生産速度に対する効果を、栽培初期、中期、後期でUVカット率を変えて分析する。同様に、農業用近赤外線カットフィルムを用いて、夏季の過熱緩和効果を解析し、芋の生産効率を高める紫外線、可視光、赤外線の制御方法に関する新たな知見を創出する。三層灌水栽培システムは他に例のない新たな栽培方法であり、太陽光の波長ごとの強度と光量がサツマイモの生育に与える影響を詳しく解析することで、独自の栽培システムの改良と生育環境の最適制御により、可食燃料作物の増産技術の確立を見込む。その成果により、国産燃料作物の増産方法や地球温暖化対策、および、将来的には砂漠の農園化や宇宙基地など閉鎖空間で食料や燃料を大量生産するための重要な知見を提供できると見込む。 課題2:下水処理工程で排出されるCO2を補給する多層栽培システムを試作し、採光率とCO2濃度と温度の関係を解析することで、増産方法を探求する。 課題3:越冬栽培期間を含めた周年栽培方法の最適操作条件を解析する。 課題4:年間を通しメタンを生産するために、サイレージ法を用いて保蔵した芋と茎葉のメタン変換効率を分析し、芋・メタンの周年生産効率の最適条件を解析する。また、メタン発酵液残渣の施肥効果を調べることで、窒素やリンなどの資源循環利用とゼロエミッション化の方法を検討する。 年間日射量に対する国内山林の増殖量の光合成収率は0.06%と概算され、また、木質バイオマスを用いる火力発電効率は30%程度にとどまるため、総合効率は0.018%と算出される。本研究は芋・茎葉を全量メタン変換し燃料電池で熱電変換することで総合効率3.6%(光合成収率4%×熱電利用効率90%)を達成し、木質バイオマス発電よりもCO2削減効率を200倍に高められることを実証する。
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Causes of Carryover |
初年度および2年度で調査旅費を500,000円計画していたが、新型コロナの感染拡大により関連学会や会議が中止になり、リモート会議に変更するなどにより397,160円の使用額にとどまった。また、出版経費等の予算も繰越分を含む100,000円が未使用となった。 一方、新規に得られた重要な知見に関する新たな実験用品の調達のためにこれらの未使用金の一部を充当し、残金が71,044円となった。 最終年度は、当初計画に沿った使用を見込む。
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