2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K12282
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
村上 佳世 神戸大学, 社会システムイノベーションセンター, 特命講師 (40572269)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 経済政策 / 異質性 / 情報開示 / ナッジ / フィールド実験 / 環境評価 / 消費者教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,環境政策のうち,情報を用いる経済政策と消費者の異質性に焦点をあて,①情報の非対称性の緩和や,②行動科学の知見を用いることによって,外部性を内部化する方法が社会に与える影響を実証的に分析し,効果比較・政策デザインすることを目的とする. 本年度は,主に以下2件の研究に取り組んだ.●第一に,方法②に関する実証研究の成果をまとめた論文を経済学一般の学術誌に投稿し,現在は査読プロセスを経ている(2ndR&R).論文では,金銭的インセンティブ(リベート)と非金銭的インセンティブ(社会比較ナッジ)が人々の節電行動に与える影響をランダム化比較実験で比較している.DIDと因果的機械学習の両方を用いて,平均介入効果とその分布を推定することで,非金銭的インセンティブの場合は,(金銭的インセンティブと比較して)介入効果の(世帯間の)異質性が大きく,さらに介入効果が政策設計者の意図しない方向で(電力消費量を増やす行動等)観察される世帯が4割程度いることが示された.この結果から,情報による政策介入効果は,平均値だけの比較評価では不十分であり,効果の異質性(介入効果の分布)にも着目した政策デザインやポリシーミックスを行う必要があることを示した.●第二に,消費者の評価の多様性とそのメカニズムを国際比較で定量的に解明した実証研究を論文にまとめて国際学術誌(Nature Sustainability)に投稿し,採用されるに至った.論文では,世界19ヵ国(G20)の居住者を対象に大規模横断的に実施した選択型実験による環境評価研究調査の回答データを分析して,国・地域の社会指標(平均寿命,所得不平等,ジェンダーギャップなど)や,回答者個人の指標(健康水準,相対所得,幸福度など)が,環境財に対する便益評価の決定要因になっていることを明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で検証予定の2種類の情報的手法のうち,ひとつの方法(ナッジ)について,実証分析を行った結果をまとめた論文が,経済学一般の学術誌で査読プロセスにあること.消費者の価値評価の多様性に着目した国際比較研究が,Nature Sustainability誌で採用に至ったことなどから,概ね順調に進展していると判断できる.
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Strategy for Future Research Activity |
6月末開催の欧州の環境資源経済学会にて発表採択済みであるが,現地開催(オンラインなし)であるため時世を受けて辞退する.今年度は,国内学会やワークショップで複数の報告を行い,また国際ワークショップには当面オンラインで参加し,成果発信とネットワーキングに努める.また,方法①情報の非対称性の緩和を用いた政策と消費者教育について,新たにデータ分析を進める.方法②がリバタリアン・パターナリズムの考え方を背景にするのに対して,方法①は「自立して思考する消費者」を目指すアプローチであり,介入効果には異なる傾向がみられることが予測される.次年度は,方法①と②を理論的に比較して社会においてどのように異なる意味をもつかを検討した上で,方法①と②の比較を実証的に行う調査のデザインを進める.
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Causes of Carryover |
コロナの影響で,海外学会やワークショップがすべてオンラインとなったため旅費が発生しなかった.代わりにオンラインで研究交流を行った.海外研究者の招聘も検討したが同様の理由で困難であった.また,PC・周辺機器を購入予定であるが,要件に十分合致するPCが見つかっていないため,次年度以降に購入を計画している.
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