2020 Fiscal Year Research-status Report
Research on Taiwan cinema of the 1950s under the martial law from the perspective of the double continuity
Project/Area Number |
20K12330
|
Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
三澤 真美恵 日本大学, 文理学部, 教授 (90386706)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 台湾 / 映画 / 戒厳時期 / 公共圏 / 白克 / 林摶秋 / 何基明 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の当初計画では、戒厳時期の白色テロが猛威を振るった1950-60年代に関する台湾現地でのアーカイブ調査および二重の連続性を体現する3人の映画人に関する遺族への聞き取り調査を予定していた。しかし、世界的なcovit-19感染拡大により、台湾現地での調査は実施することができなかった。次善の策として、日本で入手閲覧可能なシナリオや映画評、復刻された映像作品のDVDなど、限られた資料を中心に初歩的な調査を行った。インターネットを通じて日本からも利用できる有償の新聞記事データベースなども活用した。また、現地でのリモート調査補助を11月と12月の2ヶ月間試行的に利用した。こうした限定的な調査にもとづく研究成果の一部は、名古屋大学主催で2021年1月23日~24日にオンラインで実施された国際シンポジウム「メディア化された身体/引き裂かれた表象――東アジア冷戦文化の政治性」において口頭報告「戦後「台湾」映画における二つの連続性――林摶秋と白克」として発表した。 他方、「オルタナティブな公共圏」の具体的な様態について考察するため、白色テロなどについてアーカイブ資料の利用が必須となる1950-60年代の代わりに着目したのが、新聞記事データベースの利用が有効となる戒厳時期の終わり(1980年代末-1990年代)である。すなわち、戒厳時期の終わりから民主化時期において「移行期正義」の意味を担ったドキュメンタリーのなかから、台湾社会で激しい論争を巻き起こした「慰安婦」問題に関わる作品を選び、こうした作品が登場する「オルタナティブな公共圏」形成の可能性を探った。その成果の一部が論文「現代台湾「慰安婦」言説の整理――2001年論争以前」『中国語中国文化』18号(2021年3月25日)である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初、2020年度に予定していた台湾での長期出張調査や研究会はcovit-19感染拡大のため実施することができなかったため、1950-60年代に関するアーカイブ調査や3人の映画人に関する遺族への聞き取り調査などの部分に大幅な遅れが出ている。 他方、インターネットや現地リモート調査アシスタントなどを利用することで、別の角度から研究を一定程度進めることができたと考えている。すなわち、「オルタナティブな公共圏」としての映画に関しては、新聞記事データベースの利用が有効になる1980年代末-1990年代という戒厳時期の終わりを対象とし、論争的な話題となった「慰安婦」を扱ったドキュメンタリーに着目することで、一定の進捗をみた。 この時期の台湾社会における正義の基準が「抗戦正義」から「移行期正義」へと移行し、二重の連続性における重心の移動が起こるなかで、台湾「慰安婦」言説は確かに政治的に利用されたが、被害女性のニーズに誰が応答したのかを見ることで、支配的言説とは異なる「オルタナティブな公共圏」が形成されたことを確認することができた。そして、1990年代の台湾「慰安婦」ドキュメンタリーは、この「オルタナティブな公共圏」の形成のなかで登場し、同様の題材を扱ったドキュメンタリー映画を2000年代に生み出す「経験の地平」の一部をなしたのではないか、という見通しを得た。
|
Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍によって遅滞した部分については、今後あらためて補っていきたい。同時に、戒厳時期の終わり(1980年代末~)などインターネットを通じた新聞記事データベース利用による調査や文献資料、DVD資料の調査によってある程度進められる部分については、前倒して先に研究を進めるなど、計画全体での実施順序を見直す工夫をしたい。 2021年度については、新たな試みとして、インタビュー調査経験のある現地調査員に協力を求め、映画人の遺族や関連映画の監督などを対象に、ウェブ会議システムを利用したリモートでのインタビューを行う予定である。日本においても、3人の映画人の作品に潜在する映画的記憶について考察するため、幅広い映画視聴経験をもつ専門家に協力を依頼し、電話やFAXを通じてその知見を提供してもらうことも計画している。 なお、遅れている現地調査については、台湾への渡航が可能になった時点で、短期でも数度に分けて実施することで補う予定である。2023年に予定している国際ワークショップについては、場合によってはオンライン開催することも射程に入れて準備を進め、2024年度には予定通り、一定の研究成果を出すことを目指したい。
|
Causes of Carryover |
2020年度の当初計画では、サバティカルを利用して台湾の中央研究院台湾史研究所などに長期滞在し、関連するアーカイブ資料を調査し、映画人の遺族にインタビューを行い、現地で研究会を行うなどの予定があった。しかし、コロナ禍により台湾に調査に行くことは不可能となり、計画は変更を余儀なくされた。2021年度以後、台湾への渡航が可能になった時点で、次年度使用額として繰り越された助成金を利用し、未実施の現地調査を短期でも数度に分けて実施する予定である。また、それが不可能な場合には、契約によりインターネットで利用可能となるデータベースやリモート調査アシスタント、オンライン会議などを活用して代替的に計画を実施することも射程に入れている。
|