2020 Fiscal Year Research-status Report
ジェノサイド後の分断社会における和解と共生の可能性―スレブレニツァを事例に
Project/Area Number |
20K12332
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
長 有紀枝 立教大学, 21世紀社会デザイン研究科, 教授 (10552432)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | スレブレニツァ / ボスニア・ヘルツェゴヴィナ / ジェノサイド予防 / 比較ジェノサイド研究 / 和解 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は2017-19年度基盤研究(C)「ICTY判決とジェノサイド後の社会の相克-スレブレニツァを事例として」を継続・発展させ、スレブレニツァとはどのような事件であったのか、組織的殺害は紛れもない事実だが、複数の場所で発生した複数の虐殺を単一のジェノサイドとして論じることができるのか、など比較ジェノサイド研究の視点から事件のメカニズムの解明を試みることを第一の目標としている。同時に分断のただ中にある社会の和解と共生は、どのような条件下で可能となり、その理論的考察は、ジェノサイド予防や他地域の和解や共生に資する普遍的な理論たりうるかを、研究代表者自身もそのメンバーであり、2020年に公表予定の「国際専門家委員会」の報告書が現地社会の和解や分断に与える影響を検討することで、明らかにする計画であった。この目的と計画に沿って、2020年度は、文献・資料研究を進めた。 コロナ禍により、現地調査は実施できなかったが、国際専門家委員会メンバーに対し、オンラインによるインタビュー調査を実施、研究成果の一部は、「国際専門家委員会」の報告書にまとめた。スレブレニツァ事件は四半世紀を経過してなお、国際社会の耳目を集め、第93回アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされた映画も制作された(『Quo Vadis, Aida?(原題)』、邦題『アイダよ、何処へ?』2021年9月公開予定)。学術分野においても、国際法(国際刑事法)や国際政治学において検討が続いているが、比較ジェノサイド研究の立場からスレブレニツァ事件を検討する取り組みは依然として少ない。改めて、この視角からスレブレニツァ事件を研究し、理論研究につなげようとする本研究の試みは国際社会のジェノサイド予防の取り組みに大きな意義をもつものと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度は、事件のメカニズム解明のための文献・資料研究、インタビュー調査を進めるとともに、「国際専門家委員会」の報告書が、Local / Regional / International レベルで、どのように扱われるかを、現地調査を中心に仔細に検討し明らかにする計画であった。 文献・資料研究については計画どおりに実施、国際専門家委員会関係者に対してはコロナ禍で渡航ができなかったものの、オンラインによりインタビューを実施した。 しかし、「国際専門家委員会」の報告書の発行が遅れ、21年度上半期にずれこんだため、この影響・反響に関する検討は、次年度に持ち越されることとなった。 以上により「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年上半期中に公表が予定されている、「国際専門家委員会」の報告書の反応について、SNSやホームページ、現地メディア、関係者へのインタビューなどを通じて検討する。 スレブレニツァ事件を描いた映画『Quo Vadis, Aida?(原題)』の公開にあわせ、立教大学にて、この映画の表象やスレブレニツァ委員会報告書の反響について分析するシンポジウムを開催する予定である。
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Causes of Carryover |
2020年度は、現地で様々なステークホルダーにインタビュー調査を進める予定であったが、コロナ禍で渡航ができず、インタビューはオンラインでの対応が可能な研究者や政府関係者に限られた。 そのため、渡航費として予定していた研究費は、スレブレニツァ事件の犠牲者の遺体の2次埋設地が集中する村、カメニッツァの詩人ムハメド・オメロヴィチ氏の回想録『地獄の包囲下のカメニッツァ』の翻訳に充てることとなった。同書は、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ紛争開始時より、カメニッツァの陥落、そして、戦後の遺体発見に至るまでの詳細と地元の人々の様子を自らのメモをもとに記したもので、300部の限定出版の希少性の高い貴重な資料である。研究代表者が現地を訪問した際に、カメニッツァ役場の関係者から直接手渡され入手したもので、実現しなかったインタビュー調査を補完するものである。 2021年度の配分金については、上述のシンポジウムの開催費および現地渡航費に充てる予定であるが、コロナ禍において渡航が不可能な場合には、再び現地語による他の書籍の翻訳等に充てる計画である。
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Research Products
(1 results)