2021 Fiscal Year Research-status Report
エジプトにおける抗議デモに起因する政治的混乱の研究
Project/Area Number |
20K12333
|
Research Institution | Fukuoka Women's University |
Principal Investigator |
鈴木 恵美 福岡女子大学, 国際文理学部, 准教授 (00535437)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | エジプト / 政治史 / 中東 / 議会 / 抗議デモ / 名望家 / 軍 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、1923年にエジプトにおいて立憲制が整備されて以降の抗議デモや暴動を、通時的な指標で考察することで、非公式(抗議デモなどの街頭の政治)な政治と公式(議会)な政治の対立点を整理し、エジプトの政治を度々機能不全に陥れたメカニズムを解明することにある。初年度は、本研究課題で解明する三つの問いの一つ目、なぜ近代以降、エジプトでは民主主義を掲げる抗議デモが政治を混乱に陥れ、議会制民主主義を弱体化させてきたのかの考察に取り組んだ。コロナ禍により、海外における史料調査ができないため、初年度は、立憲王政期(1922年-1952年)までの都市部と中部地域で発生した抗議デモを抜き出し、主に1930年代の抗議デモの実行者とデモに批判的な立場を取る諸政党の言説を整理した。そして、両者の最終的な政治目標はほとんど変わりがないことを明らかにした。 さらに、令和3年度の研究では、政治的目標を共有しがならも対立する二者(デモ実行者とデモ批判者)が、具体的に何を争点に対立しているのかについて考察した。依然コロナ禍で海外渡航ができなかったため、用いた史資料はオンラインで入手可能なもの、日本で閲覧できるエジプト議会議事録などに限定された。 考察の結果、デモを行う側(主にワフド党)と批判的な側(主に人民党、統一党)は、政治的目標を達成するための手段やプロセスについて対立していることが明らかとなった。具体的には、スエズ運河沿岸に駐留するイギリス軍の撤退の時期と方法、スーダン支配の権限のあり方であった。また、エジプトは、イギリス軍の駐留ではイギリス側に譲歩可能な余地を残したが、スーダン支配を巡っては譲歩を頑なに拒否していた。つまり、エジプトは、イギリスという列強による植民地的支配を拒む一方、スーダンに対いては宗主国的な立場の維持を主張していたことが明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当該年度も、前年度に引き続き、本研究テーマで取り組む一つ目の課題の考察に取り組んだ。コロナ禍による海外渡航規制のため、予定していた海外における史料調査を実施することができなかった。そのため、オンラインで入手可能な資料や議会議事録を用いて調査を実施した。本研究課題を実施するためには、エジプトの国立図書館、公文書館、カイロアメリカン大学において所蔵する諸政党が刊行した機関紙、その他雑誌を調査する必要があるため、令和3年度の調査の成果については、あくまで暫定的なものとなる。暫定的ではあるが、その成果は令和4年度中に論文として発表する。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は、過去2年間に調査できなかった現地調査の実施を計画している。しかし、エジプトにおける感染状況は依然改善しないため、近年抗議デモが頻発しているレバノンにおいて、アラブ地域における抗議デモの連帯という視点から調査を実施する予定である。ただし、感染状況次第では、予定を変更する可能性もある。その場合は、引き続き、日本やオンラインで入手可能な史資料による調査を実施する。また、これまで2年間の研究成果については、今年度中に論文として成果を発表する予定である。 インタビュー調査については、可能な限り試みるが、難航が予想される。というのも、エジプトでは、インタビュー調査は対面・録音不可が前提である。電子メールでのインタビューの申し入れには返信がないことがほとんどであることから、実現できる可能性は低い。この点については、令和5年度の調査に実施を試みることとしたい。
|
Causes of Carryover |
前年度に引き続き、コロナ禍により予定していた海外調査を実施することができず、それに付随して予定されていた経費を支出できなかった。令和3年度は海外調査を予定しており、これまでの遅れを取り戻すよう試みる。
|