2020 Fiscal Year Research-status Report
経済被害額の算定過程を事例としたインドネシアにおける防災行政の組織間関係の再検討
Project/Area Number |
20K12340
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
地引 泰人 東北大学, 理学研究科, 准教授 (10598866)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐々木 大輔 東北大学, 災害科学国際研究所, 助教 (30784889)
井内 加奈子 東北大学, 災害科学国際研究所, 准教授 (60709187)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | インドネシア / 組織間関係 / 防災行政 / 経済被害額 / 国家防災庁 / 内務省 / 住民移転 / 生計手段の喪失 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、既往のインドネシア地域研究の成果を踏まえて、自然災害による経済被害額の算定過程における行政組織間関係がどのように調整されているのかを明らかにすることを目的とする。その際に、特に課題とされている住民移転と生計手段を失うことに伴う間接的な経済被害額の算定に焦点を当てる。また、従来の防災分野の先行研究が見過ごしてきた「内務省」の役割に着目する。 令和2年度の研究実績は、経済被害額のインドネシアにおける経済被害額の算定手法の一つである「災害後復興ニーズ評価調査(Post Disaster Needs Assessment: PDNA)」について文献調査を行い、その結果がJournal of Disaster Researchに掲載されたことである。この文献調査は、インドネシアでのPDNAに関する既往研究を網羅的に収集し、経済被害額の算定についてどのような知見が蓄積されているのかを帰納的に分析したものである。分析の結果、防災を主務とする国家防災庁(BNPB)だけではなく内務省の役割の重要性や、内務省が策定した「Standar Pelayanan Minimum(SPM: Minimum Standard of Services)」が経済被害額算定に関係する可能性について考察をすることができた。また、先行研究はインド洋大津波や中部ジャワ地震に偏っていることが分かった。さらには、特定の領域の詳細な事例にもとづく知見を提供する既往研究は見当たらないこともわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の進捗状況は、新型コロナウィルス感染症の影響を受けたものの、おおむね順調に進展していると考えている。 実施計画としては、1年目は中央政府レベルにおけるインタビュー調査と法的文書の計量的分析を実施する予定であった。しかし、新型コロナウィルス感染症の蔓延により申請時の計画に沿って渡航しての活動を行うことはできなかった。 その代わりに、経済被害額のインドネシアにおける経済被害額の算定手法の一つである「災害後復興ニーズ評価調査(Post Disaster Needs Assessment: PDNA)」について文献調査を行い、本研究が申請時に「学術的な問い」として検討していた「防災分野の既往研究で見過ごされてきた「内務省」の役割」について考察を深めることができた。そして、その成果を防災分野での英語論文誌であるJournal of Disaster Researchで刊行することができた。 この取組みは、今後の課題の推進についても、重要な意義を持つ。その理由は、国家防災庁(BNPB)が主管する関係法規だけではなく、他省庁(この場合は内務省)が策定する法規に視野を広げる必要性の一端が裏付けられたからである。つまり、本研究の申請時に行政文書の多種多様な側面に着目することの重要性を指摘したが、その視点が妥当である可能性を確認することができた。非常に多くの行政文書のすべてを網羅することは容易ではないが、文書の分析を進めることで、本研究の学術的な問いに答えることができるという示唆を得ることができた点が有益であった。 以上より、研究成果を学術論文として刊行できたことに加えて、今後の研究課題推進の方向性を見出すことができたため、進捗状況はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウィルス感染症の情勢を考慮すると、令和3年度にインドネシアに渡航してインタビュー調査や資料収集することは非常に困難であると考えざるを得ない。しかし、以下の点に着目し、本課題を推進する計画である。 令和2年度の成果として、防災を主務とする官庁以外への着目、多様な行政文書の分析の重要性が明らかになった。インドネシアの中央省庁レベルでは、一定程度の行政文書が公開されており、それらの文書の内容分析に取り組みたいと考えている。膨大な行政文書をやみくもに探索することは現実的ではないため、国家防災庁(BNPB)、内務省、そして公共事業・国民住宅省(PUPR)を中心に、文書を精査したい。BNPBと内務省に加えてPUPRに着目する理由は、本研究の目的に関連している。本課題は、行政組織間の関係を、住民移転と生計手段を失うことに伴う経済被害額の算定過程から解明することにあるが、PUPRは住民移転に関連する主要省庁の一つであるため、文書探索の出発点として同組織に着目する。 行政文書では、文書内に関連する他省庁、他部局、地方自治体が記載されている場合があり、文書をもとに「形式」的な組織間関係を読み解くことが可能となる。しかしそれだけでは「実態」の解明に踏み込むことが用意ではないため、オンラインによるインタビューに探索的にでも取り組みたいと考えている。本研究課題が連携するインドネシア大学の教員をつうじて、インタビュー対象者の特定と依頼を試みる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の影響でインドネシアに渡航できず主に旅費やインタビュー調査補助の費用を執行しなかったため、次年度使用額が生じた。使用計画は、論文投稿、関連資料の翻訳、国内で開催される学会への旅費及び参加費などに充当する予定である。
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Research Products
(2 results)