2021 Fiscal Year Research-status Report
国際援助におけるオルタナティヴな開発の後退:先住民性からのアプローチ
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20K12343
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宮地 隆廣 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (80580745)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ラテンアメリカ / 先住民 / 開発 / SDGs / FILAC |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度に引き続き、新型コロナウイルスの感染拡大により、予定していた現地調査は全く実施できなかった。これに伴い、これまでに入手してきた文書を元に、先住民組織がSDGsをはじめとする開発目標に自らの目標を当てはめていく過程に着目し、強力な先住民組織を擁するボリビアとエクアドルを中心に、調査を進めた。
現時点で明らかになっていることは2つある。第一に、各国の先住民組織は、開発の主流となる言説に沿って自らの組織目標を説明する姿勢を必ずしも徹底していない。SDGsのようなユニバーサルな言説は先住民固有の価値を唱えたい先住民組織にとっては取り込みにくいことが理由として考えられる。例えば、エクアドルでは政府の開発目標として「よく生きること (Buen Vivir)」なる概念が提唱され、それはSDGsに関連する政府の開発計画において測定可能な開発目標として具体化されている。しかし、同国最大の先住民団体であるCONAIEは政府のこうした対応に同意していない。経済成長と環境保全の双方のバランスを重視するSDGsや政府の言う「よく生きること」は、先住民団体の強く求める環境保全重視の姿勢とは相容れないところがあり、CONAIEはマクロな量的指標ではなく、特定地域の鉱山開発の中止など個別具体的なレベルで開発に関する成果を追求している。
第二に、FILACをはじめとする国際組織では、基本的にはSDGsの各項目に沿った形で先住民の開発目標を再定義することがなされている。一方、SDGsの発表前後において、SDGsに関する不満がFILACでの会合にて一部の先住民組織から出されたことも確認できた。これもまた、SDGsが持つ普遍的かつ量的なアプローチに対する批判の1つと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルスの感染拡大により、当初予定していた国際組織に関する現地での文書調査は停滞している。これに伴い、今年度より各国組織の活動を視野に入れ、国際組織との対応を比べるという方針で研究を進めている。この結果、先住民組織の開発目標が世界的なSDGs支持の流れに押し切られているという、本研究計画が前提としていた国際組織の傾向とは異なる流れが見つかった。また、SDGsの内容自体を変えられたわけではないにせよ、それに対する批判が国際組織の中の議論にも見られたことは、国内組織が持つSDGsに対する懐疑的な姿勢の表れとして注目できる。当初の計画からは予期しない形で研究を発展させる可能性が見えたことは前向きに評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画は新型コロナウイルスの感染拡大により2年間停滞している。感染状況の推移は未だ不透明であり、次年度は最終年度にあたることから、当初計画を最初から実行するよりは、既にある研究成果を土台として研究を進める方が良いと考える。無論、渡航が可能であれば、現地での文書収集を行うが、本年度の研究成果に関連したものを優先的に扱うようにする。
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Causes of Carryover |
本研究計画の柱であった文書収集を目的とする長期渡航が、新型コロナウイルスの感染拡大により不可能になったことが原因である。次年度は感染状況が改善され次第、可能なかぎり渡航し、研究に必要な情報の収集を行う。また、勤務校にてバイアウト制度の導入が実現したことから、研究時間の確保を目的に次年度使用額の一部をその経費に充当する予定である。
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