2021 Fiscal Year Research-status Report
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20K12382
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
生田 真人 立命館大学, 文学部, 教授 (40137021)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 経済回廊計画 / 国内制度改革 / 国家空間計画 / 空間計画省 / 首都機能移転 / 成長の三角地帯 / 地域統合 / マレーシアプラン |
Outline of Annual Research Achievements |
この研究は、主に東南アジア全域の空間政策について考察するのであるが、具体的な研究課題は次の3点である。すなわち第1は空間政策と言う用語の用語法と概念の整理であり、第2に中国・インドとASEAN共同体の関係性に関する考察であり、そして第3に東南アジアの大陸部と島嶼部との統合促進のための空間開発目標の設定である。 2021年度は、これら3つの課題の内の主に、第2課題と第3課題に取り組んだ。第2課題については、中国・インド・ASEAN間の多様な関係性を把握した。2000年代に入ると、インドの経済成長に伴って中国からインドへの輸出が急増した。インドとASEANの間では、ASEANインド自由貿易協定の締結などにより、2010年以降の貿易が拡大している。インドのASEANからの輸入で目立つのは、パーム油、石油製品などのエネルギー関連である。 こうした関係性の中で特筆できるのは、中国の一帯一路計画と東南アジアとの関係である。中国は、東南アジアとの関係構築を一帯一路形成の観点から非常に重視している。その関係性は、大陸部のみでなく、マレーシアやインドネシア、フィリピンなどの島嶼部でも鉄道へのインフラ投資などで密接に構築されている。 第3課題に関連しては、空間開発目標の設定について考察するために、その基礎的作業として島嶼部の諸国における空間政策を検討し、10.研究発表の項に記載のように公表した。この時、特に注目したのはマレーシア、シンガポールとインドネシアの3カ国である。マレーシアとインドネシアは、国内レベルの空間政策を推進しており、国際的レベルの多国間協調による空間計画の展開は、一部に留まっている。東南アジアの島嶼部では、1990年代から国連の支援などによって国境を超える国際的地域開発が推進されてきたが、シンガポールを中心とする成長の三角地帯を除くと、大きな成果があるわけではない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は、シンガポールもしくはその他の島嶼部の主要都市を実態調査する予定であったが、新型コロナ感染症の世界的流行による海外渡航の制限のために、海外調査ができなかった。このため海外調査に代わって日本国内で調査を行い、さらに情報の入手可能な範囲で東南アジアにおける島嶼部の空間政策の動向を検討した。 まず事務手続きの上から2021年度予算に計上したアジア経済研究所への調査について述べる。2021年3月下旬に、千葉県千葉市のアジア経済研究所を訪問した。アジア経済研究所では主に、東南アジア全域における航空交通関係の動向を調査した。航空輸送サービスは、経済共同体の形成の中でも優先統合分野の一つに指定されており、観光や物流に加えて航空輸送サービスは、最も重要な分野であると認識されていることが分かった。 研究所では、航空交通のみでなく、海上交通と陸上交通(物流)についても資料収集した。航空交通については1990年代中期以降の東南アジアでは、徐々に国際線市場の自由化が進行した。他方の海運市場については、東南アジアでも単一海運市場の形成を目指しているけれども、航空市場に比べると取り組みは遅れており、統一は容易ではないことが明らかになった。 続いて東南アジア島嶼部の空間政策であるが、これは上記の5.研究実績の概要の項で述べたように各国の国内レベルの空間政策を拡充する段階にあり、国境を超える国際的レベルの空間計画は、BIMP‐EAGAやあるいはIMT‐GTなどの先行的な取り組みはあるが、まだ充分ではない。ただその中にあってシンガポールを中心とする成長の三角地帯の形成は、国連などの国際機関が当初に想定したほどの国際的連携性は実現できていないけれども、3国間協調の可能性とその困難さを明示することによって、今後の東南アジアの地域統合にとって貴重な教訓を与えていることが分かった。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、この研究計画の最終年度にあたっている。この研究の最大の課題は、東南アジアへの実態調査を踏まえつつ東南アジアの大陸部と島嶼部との統合促進のための空間開発目標を設定することである。2022年度に入ると東南アジアでは、シンガポールなど他の国々でも外国人を受け入れつつあり、是非とも一度、現地の実態調査を行いたい。こうした調査に基づいて空間開発目標を考察する計画であるが、それには東南アジアの島嶼部と大陸部という地理的条件の大きな違いを考慮せざるを得ない。 空間開発は、地域間格差の是正に加えて、都市政策と農村政策と統合した複合的な政策の具体化であり、考察の対象として検討すべき諸要素が多く存在する。地域間格差の是正を考える場合には、国家間の経済格差の是正という観点に加えて、一国という国土の広がりの中で、それを構成する地域間の格差の是正を目指す政策が関連してくる。さらにそれに加えて、各都市や農村ごとの都市政策と農村政策も連動してくる。これらに加えて上記のように、大陸部と島嶼部の地理的条件の相違が大きく、同時にこの相違は大きな経済格差をも伴っている。 多様な空間開発の目標について、ここでは地域間の人や物のフローを主な研究課題とし、航空交通と海上交通の2側面から検討してみたい。この課題は同時に地域間フローを促進し発展するための空港開発や港湾整備、そして道路整備やその他のインフラ整備とも連動してくる。東南アジアの大陸部においては、アジア開発銀行が中心になって拡大メコン圏が形成されつつあるけれども、この時の主要な整備対象は高速道路であった。東南アジア全域を対象とする空間開発計画を考える場合には道路ではなく、航空交通と海上交通とを当面の対象とするのが適切であるように思われる。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症の世界的拡大のために、2020年度のみならず2021年度についても実態調査の為の海外出張ができなかった。 2022年度は、シンガポールへの実態調査をぜひとも実現するのみでなく、東南アジアに関して各種の書籍を購入し、より広範な情報を入手のためのPC購入などを計画している。
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Research Products
(1 results)