2020 Fiscal Year Research-status Report
台湾をめぐる高度人材の国際移動の新しい潮流に関する実証研究
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20K12388
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Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
中原 裕美子 九州産業大学, 経済学部, 教授 (40432843)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 台湾 / 国際労働力移動 / 少子高齢化 / 外国人労働 / 半導体産業 / 中国 / 留学生 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、新型コロナウィルスの影響により、国境を越える移動はもとより、国内での移動も困難となったため、海外調査や、国内における資料収集、国内学会への出席等がほぼ不可能となった。そのため、本研究課題の研究計画において予定していた、海外での調査をすることで知見を得たり、海外の図書館で資料収集したり、国内の首都圏の大きな図書館で資料収集をしたり、国内学会で知見を得たりすることができなかった。そこで、主にインターネットで得られる資料や、居住地において手に入る文献による研究を進めることとし、以下3点のテーマにおいて、研究を行った。その概要は以下の通りである。 第一に、本研究課題の背景となる、少子高齢化と外国人労働についてである。世界的に不可逆なペースで少子高齢化が進行する中で、労働力不足が発生し、それはこの先もますます進展すると予測されており、どの国も国内の人材だけでは労働需要を満たせなくなるという状況が起こりつつある。その状況下、労働需要を満たすために外国人を活用することが求められているが、その外国人労働の現状と、それに付随する問題点を研究した。 第二に、半導体産業において生じている、中国と台湾の間の人材移動について、中国企業が、台湾企業から大量の人材引き抜きを行っており、そのことが台湾において大きな問題となっていることに関し、世界的な半導体産業における台湾企業および中国企業の位置づけといった背景、そのような半導体人材がどの程度移動しているのか、という現状を分析した。 第三に、近年見られるようになってきた、中国から台湾への、大学の正規の課程への留学を目的とした中国人学生の移動についてである。その移動が生じるようになった中国・台湾双方における背景、台湾における受け入れ政策や、中国からの留学生の専攻分野の詳細、留学の理由や問題点等を分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」欄記載の第一のテーマ、少子高齢化と外国人労働については、ほぼ完了したため、本の一章にまとめ、出版した。 「研究実績の概要」欄記載の第二のテーマ、半導体産業における中国と台湾の間の人材移動については、まず先行研究の検討を行い、分析視角を設定した。中国の高度人材導入政策、台湾半導体産業の技術力、中国と台湾の半導体産業の実力差といった背景を踏まえた上で、中国・台湾間の半導体産業における人材移動を論じた研究はないことから、それを本研究の分析視角にすることとした。具体的な研究としては、まず、台湾と中国の半導体産業の実力差を、世界における台湾半導体産業の位置や、中国の半導体強化政策等を手がかりに調査した。中国政府は自国の遅れている半導体産業のキャッチアップのために、半導体自給率向上を目指す政策を打ち出しており、ハイテク産業育成策「中国製造2025」においても強化を謳っているが、中国の半導体産業は、設計面では、世界に通用するファブレス企業が育っているものの、製造面では遅れており、世界トップを行く台湾のファウンドリ、TSMCと、中国の代表的なファウンドリのSMICの差は大きいことが明らかになった。中国は、その差を埋めるために、台湾の半導体企業の経営幹部や技術者に好待遇を提示し、引き抜きにかかっていることもわかった。 次に、「研究実績の概要」欄記載の第三のテーマ、中国から台湾への、大学の正規の課程への留学を目的とした中国人学生の移動についてである。今年度はまず、政策面からの分析(中国から台湾への人の移動は厳しく管理されてきたが、親中路線を採った台湾の馬政権が、台中の人的交流の一環として、2010年に中国からの正規の留学生の就学を許可したという背景など)を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画は、今年度に引き続き、以下の2つの課題について進めていく予定である。 半導体産業おける中国と台湾の間の人材移動については、中国に流出した台湾の半導体人材の詳細について、いかなる半導体人材が流出しているのか、どのような条件のもとに流出しているのかということを明らかにしたいと考える。また、深刻化する米中対立と、世界を覆うコロナ禍の中で、世界の半導体のオーダーが台湾に集中していることが、台湾から中国への半導体人材の移動に影響を与えているとも考えられるため、その点について、精査していく予定である。そのために、台湾や中国の文献を当たるほか、コロナの状況にもよるが、できれば、台湾や中国の現地での調査や、国内の首都圏等の大規模な図書館での資料収集を行いたいと思う。 次に、中国から台湾への、大学の正規の課程への留学を目的とした中国人学生の移動については、中国人学生受け入れに関する台湾の政策の問題点や、この移動の結果生じた問題点等についての分析を深めて行く。また、何がしかの理論または分析枠組みに当てはめた試論を展開することも考慮に入れる。なお、このテーマに関する中間報告を、今年度、Migration, Identities, Borders and Globalizationという国際カンファレンスにおいてオンラインで発表する予定で、そこでは海外のMigration関係の研究者からのコメントが得られると思われるため、それらのコメントから知見を得て研究を修正し、さらなる発展につなげたいと考えている。
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Causes of Carryover |
2020年度は、新型コロナウィルスの影響により、海外調査や、国内における資料収集、国内学会への出席等が全く実施できなくなったため、旅費や謝金等は全く使用しなかった。そのため2020年度の使用額は、当初予定を大きく下回ることになった。 2021年度は、新型コロナウィルスの状況が改善すれば、2020年度に実施できなかった海外調査や、国内における資料収集、国内学会への出席等を行う計画である。
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Research Products
(2 results)