2021 Fiscal Year Research-status Report
台湾をめぐる高度人材の国際移動の新しい潮流に関する実証研究
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20K12388
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Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
中原 裕美子 九州産業大学, 経済学部, 教授 (40432843)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 国際労働力移動 / 外国人労働 / 半導体産業 / 台湾経済 / 後発国経済 |
Outline of Annual Research Achievements |
第一に、中国と台湾の間の人材移動についてである。その中でもとりわけ、半導体産業における人材移動に焦点を当てるために、米中対立や新型コロナウィルス禍による半導体不足の中での、世界の半導体産業における台湾企業の位置づけの変化や、それがもたらした半導体産業の垂直分業の変容という観点を取り入れることで分析した。 まず、その背景となる台湾と中国の半導体産業の実力差を、半導体産業の垂直分業における台湾企業の位置づけの変化から探った。台湾の半導体企業は、当初は半導体の垂直分業の中でのサプライヤーに過ぎなかったのだが、次第に大きなプレゼンスを示すようになり、半導体産業の垂直分業は,「台湾企業(TSMC)がキャスティングボートを握る」という形態に、大きく変容した。 その状況下で、中国は、自国の半導体産業の育成を図りながらも、台湾の進んだ技術を得ようと、台湾の半導体人材をこぞって引き抜いている。中国に流出する台湾の半導体人材は、極めて多岐にわたり、中には、社長や会長などの経営陣や、工場長、研究開発部門の幹部など、企業の鍵となる重要なポジションにいた人材も多いことが明らかになった。 第二に、近年見られるようになってきた、中国から台湾への、大学の正規の課程への留学を目的とした中国人学生の移動についてである。これに関しては、台湾側の法律の変遷や受け入れ体制、中国からの留学生が直面する課題、その課題がもたらしている帰結、等についての分析を行った。 台湾側の法律や、中国からの留学生が直面する課題等を中心に研究したところ、台湾から中国に留学した学生は中国で就労できるのに、中国から台湾に留学した学生は台湾で就労できないという一方向である問題点や、その問題点がネックになって中国の学生の正規留学生としての渡台への意欲を減少させる結果となっていることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度も、2020年度同様、新型コロナウィルスの影響により、海外に行くことはもとより、日本国内でも移動が著しく困難になったため、海外調査や、国内における資料収集、国内学会への出席等がほぼ不可能となった。 そのため、本研究課題の研究計画において予定していた、海外での調査をすることで知見を得たり、海外の図書館で資料収集したり、国内の首都圏の大きな図書館で資料収集をしたり、国内学会で知見を得たりすることができなかった。そこで、主にインターネットで得られる資料や、居住地において手に入る文献による研究を進めた。 まず、【研究実績の概要】欄に挙げた第一のテーマ、半導体産業における中国と台湾の間の人材移動についての研究をまとめた論考は、学術雑誌において、査読付き論文として刊行されたので、現時点での一応の完成をみた。 次に、【研究実績の概要】欄に挙げた第二のテーマ、中国から台湾への、大学の正規の課程への留学を目的とした中国人学生の移動についての研究成果は、英語で論文にまとめ、現在、査読付き海外ジャーナルに投稿中で、その結果待ちである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、この「台湾をめぐる高度人材の国際移動の新しい潮流に関する実証研究」というテーマの研究計画をどのように進めていくかは、2022年4月現在、正直、かなり頭を抱えている。その理由は以下の通りである。 本科研のテーマは、国境を越えた人材の移動であるが、2020年の新型コロナウィルスによるパンデミックの発生により、国境を越えた人材の移動が大幅に減少し、この研究を起案した時には想定できなかったような状況になった。2020年度・2021年度は、この新型コロナウィルスによる国境を越えた人材の移動の減少を、「非常時」の現象と捉え、それ以前の「平時」の現象を対象として研究を進めていた。しかし、コロナ禍の長期化により、この国境を越えた人材の移動の減少は、恒久的なものになるのではという懸念が発生してきた。そうであれば、この研究テーマの今後の進展がかなり限られてくることになる。 2020年度から研究していた、中国から台湾への、大学の正規の課程への留学を目的とした中国人学生の移動も、新型コロナウィルスの影響で台湾が非常に厳格な入管政策を採っているために、激減した。今後の改善は、現時点では見通せない状況である。 しかし現時点ではとりあえず、2020年度・2021年度に研究してきて、おおまかに形になってきた研究成果の発表を、国際カンファレンスにて行おうと考えている。(もっとも、それも、コロナ禍のため難しいかもしれないが。) その発表が実現すれば、海外の研究者からのコメントを得て研究を修正し、さらなる発展につなげたい。そして今後の新型コロナウィルスの動向を見て、今後の研究をどのように進めていくか、考えようと思っている。
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Causes of Carryover |
2021年度は、新型コロナウィルスの影響により、海外調査や、国内における資料収集、国内学会への出席等が実施できなくなったため、旅費や謝金等は使用しなかった。そのため2021年度の使用額は、当初予定を大きく下回ることになった。 2022年度は、新型コロナウィルスの状況が改善すれば、これまで実施できなかった国際学会での発表や、国内における資料収集、国内学会への出席等を行う計画である。
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Research Products
(1 results)