2021 Fiscal Year Research-status Report
旅行業経営における競争優位性に関する理論・実証的研究
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20K12447
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Research Institution | Kyushu Sangyo University |
Principal Investigator |
室岡 祐司 九州産業大学, 地域共創学部, 准教授 (50615359)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 旅行業 / 競争優位性 / 人的サービス / 旅行者意識 / 旅行相談料 / ツアーグランプリ / Go To トラベル / SIT |
Outline of Annual Research Achievements |
人的サービスの優位性については、前年度実施したwebアンケート調査結果を論文にまとめ、日本観光研究学会にて発表した。結果、人的サービス利用意向と対価(旅行相談料等)の支払い意識は、人的サービス利用に肯定的な人、旅行経験がある人の方が、旅行相談に対する対価を支払うことに肯定的であることが明らかになった。一方で、店舗販売やコロナ禍によってサービス提供が広がったビデオ通話におけるカスタマーハラスメントの実態がある。こうした行為はオンライン取引では発生し難いことから、人的サービスがその標的となる危険性が潜んでおり、業界における防止・抑止策の検討という新たな問題点を認識した。 商品力の優位性については、日本旅行業協会が実施する「ツアーグランプリ」について同協会へヒアリング調査を行った。結果、業界全体で企画力・創造力を引き上げ、社会的プレセンス向上を目指していることや旅行の企画という要素を持たないOTA(オンライン旅行会社)との差別化を図る意図が窺えた。また、過去27年間の受賞旅行商品(国内外269件)の比較から、特にSIT(スペシャル・インタレスト・ツアー・特別な目的を体験する旅行)へ着目した。従来はその方面を専門に取り扱う中小旅行会社が小規模に実施するニッチな旅行商品と捉えられてきたが、時代の経過と共に大手旅行会社が大きな規模(集客)で実施する等、一般化していることが明らかになった。 ネットワーク・機能活用の優位性については、旅行会社の販売ネットワークを活用したコロナ禍からの旅行需要喚起策に関する旅行者意識についてwebアンケート調査を行った。結果、休止中のGo to トラベルに代わる県民割等の旅行需要喚起策は、移動範囲が限定された政策であり、かつ感染拡大による警戒感から、旅行実施の第1の理由として旅行割引の存在を回答した層がその前の調査と比較し減少していることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実施面においては、旅行業経営の持続的な成長・発展へ向けた手掛かりを掴むために、当初の計画に沿って①人的サービスの優位性、②商品力の優位性、③ネットワーク・機能活用の優位性の観点から、研究を進めることができている。一方で、コロナ禍によって、国内外の旅行会社へのヒアリング調査が十分に実施出来ていない点、Go To トラベル事業が休止となっており事業評価が出来ない点等が、進捗の遅れとなっている。 研究成果面においては、①はアンケート調査の結果のみならず、海外の先行研究からも、ある特定の層における人的サービスの優位性が確認でき、学会発表においても、概ね支持を得た。一方で、旅行業経営の観点からみると、カスタマーハラスメントという新たな問題点や生産性を視野に入れた人的サービス活用方法に対する課題がある。②は、ツアーグランプリを事例にSITが一般化・ニーズがある点を見出すことができ、より一般化していくことが、旅行商品・旅行会社の優位性の源泉になるのではないかとの仮説に至った。一方で、SITに取り組む国内外の旅行会社へのヒアリング調査が遅れているため、次年度課題としたい。③は観光復興における旅行割引政策に関する旅行者意識を調査したところ、復興時のみならず平時からの需要喚起策を支持する声が一定数あることまでは把握できた。今後、旅行機会の分配、ターゲット層を絞った支援等、ソーシャル・ツーリズム的な運用について考察を進めていく。一方で、Go To トラベル事業は、運用の基盤となる旅行会社の不正が明るみになったことからも、旅行会社の機能・ネットワーク活用のあり方について再検討が求められる状態にある。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、旅行業経営の持続的な成長・発展へ向けた手掛かりを掴むために、①人的サービスの優位性、②商品力の優位性、③ネットワーク・機能活用の優位性の観点から、研究を進める。 ①は、新たな問題点であるカスタマーハラスメントの実態把握に留意しながら、安心・安全な旅行がより重視されるウィズコロナ時代の人的サービスの優位性について、旅行会社の取り組み事例をヒアリング調査し、時代の変化に対応したモデルを検討する。 ②は、旅行商品の模倣困難性と旅行満足度、事業収益を高めるプロセスを明らかにするために、SITに取り組む国内外の旅行会社へのヒアリング調査を進める。具体的には、国内はSITに取り組むツアーグランプリ受賞企業とし、受賞商品の内容を調査・比較することにより、旅行商品の魅力のポイントや差別化要因(模倣困難性を高める方策)、テーマの時代性、旅行者の満足度(参加者の評価の声)、商品の事業性(旅行代金と集客数・収益性)等を調査・検討する。国外は、アメリカを想定し、アドベンチャーツーリズムに取り組む旅行会社やDMC、旅行業協会等を検討している。 ③は、Go To トラベル事業の新たな展開に着目すると共に、ネットワーク・機能を活用した旅行業以外の事業領域拡大の取り組み事例やDMO(観光地域づくり法人)との連携に着目する。これらは旅行会社の事業を再定義する可能性があることから、国内外の事例を調査から情報の蓄積を図り、持続可能な事業のあり方について考察を進める。 今年度もコロナ禍の影響が残る可能性があり、国内外のヒアリング調査・実踏調査に影響が考えられるが、基本的には当初計画に沿った形で、前年度までの研究成果の深耕を図る。
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Causes of Carryover |
コロナ禍によって、国内外の旅行会社ヒアリング調査の出張が出来ず、また、日本観光研究学会の全国大会も遠隔開催となり、旅費や謝金が減少した。また、コロナ禍における旅行者意識調査は、他の研究費を活用した調査にて兼ねることが出来たため、支出が伴わなかった。今年度は最終年度であるが、コロナ禍によるヒアリング調査の制限が2年間続いており、今年度の状況も見えない部分があるため、研究期間を1年延長することも視野に入れている。いずれにしても、当初計画を意識しながら、効果的な研究費支出を行う。具体的には、研究初年度・2年目に計画していた国内外の旅行会社へのヒアリング調査に伴う旅費・通訳費等への使用、ヒアリング調査から設定した仮説を検証するためのアンケート調査費への使用等を計画している。
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Research Products
(2 results)