2020 Fiscal Year Research-status Report
New structural analysis using multi-atom resonance
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20K12485
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
馬場 祐治 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究嘱託 (90360403)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
下山 巌 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 先端基礎研究センター, 研究主幹 (10425572)
本田 充紀 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究副主幹 (10435597)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 多原子共鳴 / X線吸収 / 共鳴励起 / アルカリハライド / アルカリ土類ハライド / 蛍光X線 / 放射光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「多原子共鳴」現象を利用して、「隣接元素を特定できる」新しい構造解析法を確立することを目標とし、3年計画でスタートした。 初年度の令和2年度は、単純な二元系物質として、アルカリハライド(KCl)及びアルカリ土類ハライド(CaCl2、SrCl2など)について、一方の元素の内殻軌道電子を放射光X線により共鳴励起したときに、相手側の元素から放出される蛍光X線測定を行った。その結果、固体CaCl2のCa 1s電子を共鳴励起すると、Clから放出されるCl Kα X線の強度が減少することを見出した。この現象は、少量のCaCl2と有機分子を混合したペレット(CaCl2濃度は1%)でも認められることから、X線の自己吸収による効果ではなく、X線の吸収が隣接した原子に影響する「多原子共鳴」の効果によるものであることを明らかにした。一方、同様の実験を1%の濃度のCaCl2水溶液について行ったところ、Ca 1s電子を共鳴励起しても、Cl Kα X線の強度に変化は認められなかった。これはCaとClが解離し十分な距離を取っているため、多原子共鳴の効果が現れないためと考えられる。このような固体と水溶液における多原子共鳴の違いは、KCl及びSrCl2においても観測された。以上の結果から、これらの二元系物質では、励起される原子に直接結合した原子だけに多原子共鳴が起こることが明らかとなった。 さらに3元系以上の物質として、Ca(OH)2とKClの混合固体についても検討した。その結果、Cl Kα X線の強度変化は、K 1s電子を共鳴励起した時だけに起こり、Ca 1s電子の励起では起こらないことが分かった。この結果は、多原子共鳴現象を利用すれば、ある特定元素に隣接する原子種を特定できる可能性を示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では、初年度の令和2年度は、アルカリハライドなどの単純な二元系物質の固体及び水溶液について多原子共鳴が起こるかどうかを、放射光を使った実験で検証することを目標としていた。研究を開始した令和2年4月から6月の期間は、あいにく新型コロナの影響で、放射光実験に制約があり、研究の開始がやや遅れた。しかし、同年10月から令和3年3月の間は、放射光施設側のご努力により、安全に放射光実験を行うことができ、遅れを取り戻すことができた。その結果、上述のように二元系だけでなく、より複雑な三元系以上の物質においても多原子共鳴が起こることを明確に示すことができ、今後の研究の進展への道を拓ことができた。以上のことから総合的に考えて、本研究は当初予定通り、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
ある原子の内殻電子を共鳴励起した後の脱励起過程としては、輻射遷移(蛍光X線放出)と非輻射遷移(光電子放出、オージェ電子放出)がある。これまでの報告では、多原子共鳴に関する両者の結果は異なっている。そこで、前年度までの研究において輻射遷移における多原子共鳴の効果をある程度明らかにすることができたので、二年目の令和3年度からは、非輻射遷移に関して多原子共鳴の研究を行う。具体的には、上記と同じ単純な二元系物質であるアルカリハライド、アルカリ土類ハライド及びSiO2、Si3N4などのシリコン化合物について、一方の元素の内殻電子を共鳴励起したときに、相手側の元素から放出される光電子及びオージェ電子強度の測定を行う。これにより、輻射遷移と非輻射遷移の間で、多原子共鳴に違いがあるかどうかを明らかにする。また、多原子共鳴が起こる割合に対する、原子番号、原子間距離及び原子価状態の影響を定量的に明らかにする。さらに酸化物超伝導体(イットリウム-バリウム-銅酸化物)や金属含有ガラスなど、3元系以上の複雑な組成を持つ化合物に関し多原子共鳴に関する研究を進め、実用材料の新しい構造解析法への応用について検討する。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、2021年1月広島で開催予定だった第34回日本放射光学会年会に研究成果を発表する予定であったが、当学会が新型コロナのためオンライン開催となった。また、新型コロナのため、放射光実験施設(高エネルギー加速器研究機構、つくば市)での実験が2020年4月~9月の期間、中止となったため、当初予定していた放射光実験に係る旅費(東海村⇔つくば市)を使わなかった。以上の理由により次年度使用額が生じた。これらの予算は、令和3年4月以降の学会発表に係る旅費並びに放射光実験及び実験打ち合わせに係る旅費に充てる。
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