2020 Fiscal Year Research-status Report
光核反応からの二次粒子の偏光依存を用いた系統測定による電子加速器の遮蔽設計高度化
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20K12487
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
佐波 俊哉 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 放射線科学センター, 教授 (90321538)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 光核反応 / 二重微分断面積 / 中性子スペクトル / レーザー逆コンプトン / 角度分布 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、レーザー逆コンプトン散乱施設において得られる、単一エネルギー偏光光子を用いて、光子と標的核との核反応に よる二次粒子の生成機構について実験的研究を行う。この実験で得られるデータは、医学・理学・工学で用いられている数10 MeVの電子加速器に対する遮蔽設計において必要である。本研究では、光子の偏光の影響を受ける成分と受けない成分を分離して、エネルギーと角度分布を広範に測定し、系統的データを得る。光子の核反応モデルの改良を行い、電子加速器施設に対する遮蔽設計の高度化をはかる。 研究計画では(1)実験データの取得、(2)核反応モデルの開発 、(3)偏光による影響の評価、について行うこととしているが、当該年度はCovid19の感染拡大、および使用を予定していたNewSUBARU加速器がアップグレードのために長期停止に入ってしまった影響で、実験が実施できなかった。そこで、以前に同加速器で行った予備実験のデータを解析・検討し、実験データとしてまとめるとともに、これまでの研究で得られたデータと比較し妥当性を検証した。この実験データと代表的な計算コード、核反応データライブラリと比較を行い、核反応過程が中性子エネルギー分布に与える影響を明らかにした。そして、この中性子エネルギー分布に対してコンクリート透過による線量の減衰計算を行い、エネルギー分布の違いが線量にどの程度影響するかについて見積もった。 本研究で得られた実験データは放出中性子 のエネルギーと角分布を与えており、光核反応機構のさらなる探求を可能にするものである。そして、このデータは明らかに前平衡成分の存在を示しており,これの理論的研究が進むことが期待される。応用面においても、前平衡成分がコンクリート透過後に線量において大きな寄与を与えることが明らかとなり、このデータが電子加速器の遮蔽設計などにおいて重要であることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当該年度では、実験データに基づき、1本の学術誌投稿論文と1本の紀要論文、1回の国際学会発表(受理されたが延期)、4回の国内学会と研究会での発表を行った。学術誌投稿論文は6つのターゲットについて、世界初の光核反応中性子の二重微分断面積を与えたものである。この数値データをIAEAの原子核実験データベースに登録するとともに、ホームページによりダウンロードを可能にした。また、この実験データと汎用放射線輸送コード、核反応データライブラリ、励起子モデルを用いた統計崩壊計算の3つと比較を行い、その相違点を明らかにし、中性子エネルギー分布の再現に前平衡過程が重要であること、古典論に基づくモデルでは角度分布の再現ができないことを示すことができた。そして応用面においても、実験結果の知見がコンクリート透過後線量において大きな寄与をする可能性を明らかにした。以上の成果は開始初年度において計画以上のものである。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度はCovid19の感染状況収束および使用を予定しているNewSUBARU加速器のアップグレード作業の終了を待ち以下を実施する。 (1)実験データの取得 標的核を、重核である鉛、金、中重核である、銅、鉄、軽核である、チタン、アルミニウム、炭素等を対象とし、入射光子エネルギーを測定実績のある17 MeVに加え、各標的核が最も大きな断面積を与えるエネルギーにとって、入射光子と標的核の核反応により放出される中性子のエネルギー・角度分布の、入射光子の偏光、標的核の重さ、入射光子のエネルギー、に対する系統的な 実験データを取得する。 (2)核反応モデルの開発 (1)で取得した実験データを元に、偏光による影響を受ける成分と、単純な脱励起モデルにより記述できる成分に 分離し、標的核の重さと入射光子のエネルギーの依存性を、標的核の原子核構造を参考にして、統一的に記述する。この記述をもちいて核反応 モデルを開発し、既存の放射線輸送コードに組み込まれている脱励起モデルに加えて組み込む。 (3)偏光による影響の評価 (2)で開発した核反応モデルを組み込んだ放射線輸送コードを用いて、医学・理学・工学の分野で広く用いられ ている数10 MeVまでの電子加速器での放射線・放射能の生成の計算をおこなう。これまでに得られている実測データを用い、予測精度の向上 について確認する。
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Causes of Carryover |
Covid19の感染拡大および使用予定施設の改造により実験が実施できなかったため。この実験はCovid19の感染収束後および使用予定施設の改造終了後に行うこととする。
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Remarks |
ページ中の測定データの公開の項目において論文と数値データへのリンクを作成
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Research Products
(8 results)