2020 Fiscal Year Research-status Report
クラスターイオンに特異的な突然変異誘発と産業応用に関する基盤研究
Project/Area Number |
20K12489
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Research Institution | National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology |
Principal Investigator |
長谷 純宏 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 高崎量子応用研究所 放射線生物応用研究部, 上席研究員(定常) (70354959)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森林 健悟 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学領域, 上席研究員(定常) (70354975)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | クラスターイオン / 致死効果 / 枯草菌 / 胞子 / 動径線量 / 核間距離 |
Outline of Annual Research Achievements |
クラスタ―イオンビームがもたらす特徴的なエネルギー付与は、複数の原子が近接した状態でターゲットに入射することに起因するが、生物影響に関しては全く研究がなされていなかった。本研究では、真空チャンバー内で照射が可能な枯草菌の胞子をターゲットとし、プロトンイオンを用いて単原子イオンとクラスターイオンの致死効果を比較した。LETの異なる3 種類の単原子イオン(340keV H+(LET 75.0 keV/μm)、500keV H+(58.9)及び1MeV H+(37.7))、ならびに1MeV H+と原子あたりの入射エネルギーが等しいクラスターイオン(2MeV H2+(37.7×2=75.4))を用いて、5回の照射試験を実施した。2MeV H2+は、340keV H+と同等のLETを有するにもかかわらず、致死効果は340keV H+に比べて低く、この違いは空間的な線量分布によるものと考えられた。2MeV H2+は試料表面で結合電子を失い、2つの1MeV H+に解離する。この2つの1MeV H+の核間距離は胞子を通過する間に徐々に広がるが、クーロン斥力及び胞子中での多重散乱を考慮すると概ね数nm以内であると考えられた。さらに、1MeV H+及び340keV H+の水中での動径線量を評価した結果、いずれのイオンも軌道中心から半径1nmの領域に大きな線量を付与し、さらにこの領域における線量は340keV Hの方が1MeV Hに比べて3倍以上高いと考えられた。これらの結果から、同等のエネルギー量がわずか数nm程度の距離であっても離れた2ヶ所に分散して付与されることで致死効果は大きく低減されること、また、軌道中心から半径1nm程度の範囲のエネルギー密度が致死効果に大きく寄与することが実験的に示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
クラスターイオンを用いることによって、粒子線の致死効果が軌道中心から半径1nm程度の範囲のエネルギー密度に大きく依存することを実験的に示唆する結果が得られた。当初計画と照らして概ね順調と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
クラスターイオンと単原子イオンで生じる突然変異の特徴について比較するため、2MeV H2+、1MeV H+及び340keV H+の照射で得られた生存コロニーからDNAを抽出し、全ゲノム解析を実施する。
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Causes of Carryover |
主に、新型コロナウイルス感染拡大の影響により旅費の使用がなかったことによるものであり、次年度の旅費及び消耗品購入に使用する。
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Research Products
(2 results)