2020 Fiscal Year Research-status Report
陽電子ビームが誘起する特異な表面動的反応過程の解明
Project/Area Number |
20K12498
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
立花 隆行 東京理科大学, 理学部第二部物理学科, 研究員 (90449306)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 電子遷移誘起脱離 / 陽電子 / 量子ビーム / 電子衝撃脱離 |
Outline of Annual Research Achievements |
低エネルギーの陽電子をアルカリハライド結晶表面に入射すると、電子-陽電子対消滅によって結晶表面上で分子イオンが形成され、それが非常に高い効率で真空中に脱離する。この様な分子イオンの脱離は陽電子入射に特有の現象であるが、そのメカニズムについては不明な点が多い。陽電子ビームが引き起こす原子・分子の動的反応過程の解明は、未開拓な基礎的研究として興味深いだけでなく、陽電子ビームの応用的利用法にも新たな可能性をもたらす。本研究では、単純な結晶構造と電子構造をもつアルカリハライド系結晶を試料として、陽電子刺激イオン脱離の機構解明を進める。 研究初年度である本年度には、実験装置の大幅な改良に着手した。これまで用いてきた試料ホルダでは,試料温度を精度よく制御できない。この問題を解決するために温度可変の試料ホルダを新たに製作した。また、超高真空対応のハーチメック型の熱電対を用いて、測定中でも試料温度をモニターできるようにした。さらに、ガンマ線に対して高エネルギー分解能を持つゲルマニウム検出を用いて試料に入射した際に放出する消滅ガンマ線を検出できるようにした。 改良した装置の動作確認をするために、これまで用いてた二酸化チタン結晶を試料に用いてテスト実験をおこなった。また、従来からの測定に比べて扱うデータ量が大幅に増加したことから、測定用のプログラムを開発するこで効率よく実験ができるように工夫した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の目標としていた実験装置の大幅な改良については、試料にアルカリハライド結晶を用いることができなかったものの、二酸化チタン結晶を用いることで概ね計画通り進めることができた。テスト測定の結果,新たに製作した試料ホルダによって、試料を室温から800℃まで制御できることがわかった。開発した測定プログラムも問題なく動作した。また、ゲルマニウム検出を用いた測定によって、入射エネルギーの違いよって消滅ガンマ線のエネルギー分布が大きく変化する様子を観測することに成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
概ね計画通り進んだことを踏まえて、次のステップとしてアルカリハライド結晶を用いた陽電子消滅誘起イオン脱離の観測をおこなう。まずは比較的扱い易いフッ化リチウム結晶を試料とする。開発した装置を用いて、脱離イオン種の質量同定及びそれらの収量の温度依存性を測定する。また、消滅ガンマ線のエネルギー分析も試みる。その一方で、これまでの予備実験の解析を進めたところ、まだ質量を同定できてないイオン種の脱離が起こっている可能性があることがわかってきた。その脱離イオン種を特定するのに、現在の装置では質量分解能が不足している可能性がある。その場合には、イオン検出部分を改良することによって質量分解能を高めることを検討する。実験結果をまとめて、論文を投稿することを目指す。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、装置の改良を進めた後に数種類のアルカリハライド結晶を購入してテスト測定をする予定であった。しかし、緊急事態宣言が発令された結果,実験計画を大幅に変更せざるを得なかった。同様な理由から、装置の改良に関する設計・製作に大幅な遅れが生じた。そのため、テスト測定の準備段階に入れたのが年度末になってしまった。そこで、アルカリハライド結晶を新たに購入するのではなく、これまでの実験で用いてきた二酸化チタン結晶をテスト測定の試料に用いることで、実験計画の遅れを取り戻すことにした。加えて、参加を予定していた学会が中止になったために、旅費に充てていた予算を執行しなかった。これらの理由から次年度使用額が生じた。これらは、複数のアルカリハライド結晶と真空部品の購入、及び学会発表旅費として使用する。
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Research Products
(2 results)