2022 Fiscal Year Research-status Report
陽電子ビームが誘起する特異な表面動的反応過程の解明
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20K12498
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
立花 隆行 学習院大学, 理学部, 研究員 (90449306)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 電子遷移誘起脱離 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、アルカリハライド結晶における陽電子刺激イオン脱離過程の解明を目的としている。昨年度におこなった装置改良によって質量分解能が大幅に向上した装置を用いて脱離イオンの検出を進めた。また、測定に用いるソフトウェアを開発し、検出器から出力されるイオン信号をUSBオシロスコープで取り込みながら、それと同時に簡易的なデータ解析もおこなうことを可能にした。実験の結果、質量数40付近の質量ピークを分離することに成功し、これまで確認できていたものとは別の分子イオン種の脱離を観測することに成功した。さらに昨年度に製作した試料加熱機構によって脱離イオン収率の温度依存性の観測をおこなった。その結果、陽電子ビーム照射によって脱離する分子イオンの収率は室温では極めて低いが、試料温度が200度以上になると急激に増加することが明らかになった。このような温度依存性は電子ビーム照射によるイオン脱離では観測されておらず、陽電子刺激イオン脱離の過程を解明する上で極めて重要な知見である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度に開発した装置を用いて実験を進めた結果、これまで観測されていたものとは別の分子イオン種の脱離が起こることが明らかになった。これは予想外の結果であり、実験計画を変更し、この分子イオンの脱離を詳細に調べることにした。その結果、分子イオンの脱離が試料温度や表面の状態に強く依存することがわかった。一方、実験準備と測定にかなりの時間を費やしたことから、当初計画していたフッ化リチウムとは別のアルカリハライド結晶からのイオン脱離を観測するまでには至らなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
新たに観測に成功した分子イオンの脱離について、データ解析を進め論文投稿を進める。それと同時に成果を国内外の学会で発信する。また、昨年度得られたデータをもとに、フッ化リチウム以外のアルカリハライド結晶からのイオン脱離の観測も試みる。その測定が一通り終了したら、表面に分子が吸着した試料を準備して、吸着系からの脱離の観測を試みる。
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Causes of Carryover |
昨年度に開発した実験装置の調整や測定プログラムの開発に時間を要した。また、陽電子ビーム照射による新たな脱離現象を捉えることに成功し、その脱離の特徴を調べるために試料温度や試料表面の状態を変えて実験を繰り返しおこなった。その結果、当初予定していた実験の遂行に遅れが生じたために次年度使用額が発生した。次年度では、実験に必要な結晶試料や電子銃関係の消耗部品を購入する。また、表面吸着系からのイオン脱離の観測するために、実験用の真空容器にガス導入ラインを取り付ける。バルブや真空配管等の部品を購し、そられを組み合わせてガスラインを製作する。装置開発は概ね終了し、測定で得られるデータが増えてきたことから、新たに解析用のPCを準備して研究の効率化を進める。
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