2020 Fiscal Year Research-status Report
大強度中性子環境下で安定動作するホウ素被覆型中性子検出器nTGCの開発
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20K12503
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
大下 英敏 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 技師 (00625163)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ホウ素被覆型中性子検出器 |
Outline of Annual Research Achievements |
J-PARC物質・生命科学実験施設に建設された高強度中性子全散乱装置(NOVA)には、これまでに最高中性子強度で約1.5年分の中性子が照射されている。わずか1.5年分の中性子照射にも関わらず、NOVAの中性子検出器である3-ヘリウム位置敏感型中性子検出器(3He-PSND)では、深刻な放射線劣化が発生している。本研究では、3He-PSNDの代替検出器の開発として、素性の良いμ粒子トリガ用検出器であるThin Gap Chamber(TGC)をホウ素被覆型中性子検出器nTGCに仕立て直すことを目的としている。さらに、nTGCの小型プロトタイプによる評価試験をおこない、nTGCが3He-PSNDの代替検出器となり得ることを実証する。 研究初年度は、主にTGCの作成および読み出し回路の整備を実施した。ガスフロー型のMulti Wire Proportional Chamberの1つであるTGCは、2枚のFR4基板で陽極ワイヤーを挟み込んだ構造をしている。さらに大きな特徴として、二次元読み出しを実現するため、FR4基板のチェンバー外側には陽極ワイヤー方向に垂直なストリップラインが刻まれ、チェンバー内部には1 MΩ/□の面抵抗値を持つカーボン面が塗布されている。本研究では、カーボン面の代わりに中性子に感度を持つボロンカーバイド面を塗布することで、中性子の検出を可能とする。nTGCの製作に関する要素技術は既に確立されており、それらを再現する環境を整備することが主な実施事項であった。一方で、読み出し回路については、中性子実験用に改めて開発する必要があったが、研究初年度の開発において、プロトタイプの製作までおこなうこtができた。今後は、実際に中性子照射試験を実施してnTGCの性能評価をおこなう予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
nTGCの小型のプロトタイプ製作において、未知の作業プロセスは中性子コンバータであるボロンカーバイドの塗布作業だけである。従来のTGCのカーボン面の成膜においては、いわゆる導電性カーボン塗料が使用されてきた。nTGCでは、中性子に感度を持たせるため、ボロンカーバイド塗料を使用する。さらに、成膜作業においては、面抵抗値に加えて成膜厚が検出器性能に影響するため、いくつかの成膜条件を試して、これらの相関関係を整理している。現状では、塗料の入手性、再現性が悪いため、塗料の調合方法から見直しを検討している。 中性子実験に対応したnTGCの読み出し回路はプロトタイプの製作まで実現された。16チャンネルから出力されるデジタルシグナルに対して、Time Of Fligth値、検出時間(時間幅)、検出チャンネルを含んだ検出パターンなどをストリーミングでデータ変換する。変換データは速やかに計算機にデータ転送されるため、検出器システムのレート特性を改善することが期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究予定であるが、ボロンカーバイド面の成膜方法の開発を引き続き進める。その一方で、小型TGCおよび中性子実験に対応した読み出し回路は実現されているので、チェンバーガスに窒素を混ぜ合わせて中性子照射実験を実施する。窒素ガスはn(14^N,p)14^C反応によって中性子の検出を可能にする。その一方で、吸収反応断面積(1.83 barn)が非常に小さいので、0.001%程度の熱中性子感度となることが予想される。この場合、中性子ビームモニターなどの限定された用途でしか利用できないが、用意された読み出し回路の開発は並行して進められる。中性子照射実験はJ-PARC MLF、京都大学複合原子力科学研究所KURに加えて、日本原子力研究開発機構JRR-3でのマシンタイムを確保したため、より柔軟に実験スケジュールを計画できるようになった。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響により、国際会議参加などを見送ったために予算を翌年度に繰り越した。
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