2022 Fiscal Year Research-status Report
A study on charting method of Japanese historical space understanding by the act of viewing while walking
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20K12527
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
清水 和洋 (清水泰博) 東京藝術大学, 美術学部, 教授 (80345339)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 岩(石組) / 滝(水) / 山(築山) / 自然崇拝 / ユートピア(理想郷) / 信仰 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度(2022年度)はこれまでの2年とは違い、年間を通じてコロナ(COVID19)への規制が緩くなったおかげで、国内での調査がかなり可能になった。そこで特に庭園要素となっている滝(水)、岩(石組)、築山といったものの起源となる場所を中心に全国的に調査を行った。これらは特に庭園の骨格となる要素であり、植栽が年月の変遷の中で常に変わっていくものであるのに対し、変わらないものとして過去からずっと存在してきたものだからである。庭園にはこの不変の骨格に込められた意味があり、その起源となった風景を見るところから改めて庭園等の外部空間を考察しようと考えたものである。 そのような昨年度のある程度の調査を終えた段階での現時点での仮説ではあるが、我が国においては、日本固有の自然環境(火山、地殻変動、海による侵食等により自然が作り出した造形)から独自の自然観や自然崇拝、信仰が生まれ、その自然の特徴的な姿からそこに「神」を見出し、それを来世への願いや浄土への憧れを反映させる対象のようにしてきたように思われる。それが寺院や神社、さまざまな庭園のバックグラウンド(造形の背後にあるもの)として作られ、見られるようになってきたのではないかということである。 日本の歩行を伴う空間体験の場にはこのような要素が多く見られ、中国から伝わった観念的な要素(蓬莱山や須弥山など)の場合も勿論あるが、平安期の「作庭記」が、作庭に当たっては風景を真似ることを第一としていることからも、多くの自然風景からの引用がなされていることは間違いない。今後はそのような認識のもとに想定主対象地の寺社、庭園の歩行空間に込められた意味を考察していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度の六義園庭園を中心とした調査は江戸期の回遊式大名庭園を対象に、回遊における視点場と視対象の関係を調査したものであった。これは調査対象の一つの中心となる京都の回遊式庭園の事前調査的な意味合いで、実際の庭園構成の仮説を導き出す為のものであった。 2021年度は六義園から対象を広げて東京都内に多く見られる大名庭園及び庭園遺構の調査、また鎌倉にある鎌倉期の庭園調査を行った。大名庭園は江戸時代に東京に集中的にあった特徴的な庭園であり、今もその痕跡が公園などに残されていることに興味を持ったが、このような関東圏の調査は時代的に京都に都のない(関東に都のあった)時代の庭園の調査でもあり、都における日本の庭園文化の歴史の継続を確認することでもあった。 そのような基礎調査を踏まえて、コロナ(COVID19)からの解禁が近くなったことから、関東圏以外の調査も次第に進めることにした。2022年度は京都のみならず、近畿圏では熊野、白浜、和歌山、奈良、吉野、滋賀各所等の調査を、それ以外には浜松を中心とした静岡、鎌倉、南房総、日光、箱根などの調査を行った。このような当初の調査想定場所である京都以外の調査を行うことにより、庭園のみならず寺院や神社もそれぞれの場所の自然の特徴を生かして構成されていること、特に庭園に用いられている滝や石などの自然要素が、火山、地殻変動、海の侵食などの自然が作り出したものへの信仰がベースにあるのではという仮説も立てられている。 今後は今までの調査から得られたポイントを中心に当初想定場所の再調査をしていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
「歩行空間のデザインの意図を明らかにする」ことからスタートした研究であるが、COVID19の影響もあって、調査自体が満足に出来ない状況がほぼ2年続いていた。昨年度からかなり状況が改善してきており、調査対象地への旅行、調査対象場所の公開状況がコロナ以前の状態に戻ってきたので、京都に限らずかなり広範囲な調査を行なってきている。また調査対象は当初は作られた空間(寺社や庭園)が中心であったが、その空間に引用された元の空間(特徴的な風景や名所のような場所)の調査も含めている。これは研究自体の内容を深めるためでもあり、空間分析にあたってはそこに見立てられた景観までも含めて考えてみたいと思っている。また今年度は庭園の比較研究対象地としていたイギリス風景式庭園の調査も行う予定である。イギリス風景式庭園に見られる要素の日本の庭園との比較が、今は仮説としている「日本固有の自然環境(火山、地殻変動、海による侵食等により自然が作り出した造形)から独自の自然観、宗教観が生まれ、それをベースに作られてきたのではないか」ということの検証にもなると思っている。
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Causes of Carryover |
当該助成金が生じた最も大きな理由は、2年にわたりCOVID19(新型コロナウイル感染症)の流行で予定していた国内調査及び海外調査(イギリス風景式庭園調査)が制限されたことである。これは直接的には(旅費部分)についてであるが、それによって使用機材の購入を次年度以降に見送ってきたこともある(物品部分)。今年度(2023年度)はCOVID19関連の規制が昨年より更に緩和されることもあって、ようやく海外調査も行うことが可能と思われ、また国内調査も本来の計画通りに進められるようになりそうであり、旅費部分及び物品部分での当初予定の研究費の使用が見込まれる。今はまだその後のまとめ作業等における人件費・謝金の使用は未定ではあるが、そちらも進めて行く予定である。
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Research Products
(1 results)