2023 Fiscal Year Research-status Report
A study on charting method of Japanese historical space understanding by the act of viewing while walking
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20K12527
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
清水 和洋 (清水泰博) 東京藝術大学, 美術学部, 教授 (80345339)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | シークエンス / 東屋とフォリー / 理想郷 / 回遊 / 地勢 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度(2023年度)は一昨年度以上に海外の現地調査が容易になったことを受けて、初年度に計画していた日本の回遊式庭園の比較研究対象であるイギリスの風景式庭園の調査を行った。主な調査対象地はイギリス南部の「ストアヘッド庭園」「ローシャム庭園」「ブレナム宮殿及び庭園」「ストウ・ランドスケープ庭園」である。またその後、ロンドンでは自然風景式庭園が都市に定着していった事例調査として、公園都市・ロンドンのいくつかの現代の公園及び庭園調査も行った。イギリスでは特に上記の4つの自然風景式庭園を調査したことで、そのスケールやシークエンスの変化の実際について実感することが出来、同じ自然風景式庭園でありながら日本の庭園との空間構成の相違についての理解が進んだ。また同時に何が日本の特徴であるのかも仮説としてではあるが構想することが出来たように思う。 一昨年の日本の海岸沿いに見られる名勝等の景観調査では、海に接する火山国という状況が生み出した自然による造形物(火山活動により出来た岩を、長い年月の中で波が加工していったもの)がその後の日本の庭園モティーフに影響を与えていくという日本の地勢学的影響を感じられたが、今回のイギリス庭園調査からはそのようなものはあまり見られず、石の扱いに最も大きな違いが見られた。そのようなことから今回テーマにしている庭園における「周回移動」については両者を比較することによって日本の独自性をある程度理解できたように思う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍の中2020年度、2021年度と東京の大名庭園を代替の調査対象として、回遊における視点場と視対象の関係を調査したきた。これは「周回移動」の調査対象の中心となる京都の回遊式庭園の事前調査的な意味合いで、実際の庭園構成の仮説を導き出す為のものであった。それを踏まえて2022年からは京都の庭園及び寺社等の空間調査に加えて、鎌倉及び千葉の寺社等の伝統的空間の調査を行い、海沿いの場所の空間調査から火山と海という日本独自の地政学的な意味に気づくことになった。その確認調査として近畿圏では熊野・白浜などの調査を行い、特に庭園に用いられている滝や石などの自然要素は火山、地殻変動、海の侵食などの自然が作り出したものであり、そのようなものへの自然信仰と、それらを名勝として残し、伝え、庭園の要素としてきたことが庭園のベースにあるという仮説も立てている。2023年度は国内では今までに未実施であった松本・安曇野、金沢の庭園調査も行い、今までの東北及び中国地方の調査を含めて、全国各地の状況を調査してきている。夏には当初から予定のイギリス自然風景式庭園の調査も行い、同じ自然風景の中での「歩行による空間体験」ではあるが、明らかに意図的に違うことも分かった。 当初は日本の空間構成の独自性を分かりやすく示す表記法の考案を中心に考えていたが、庭園モティーフとなる全国各地の名勝などの要素の意味の考察などが必要と思われ、次第に庭園の背後にある日本の風景観のベースとなっている日本の「地勢」の意味の考察が必要であることを認識し始めた。また逆にそのような例が海外にもあるのかもである。 今年度は今までの様々な場所の調査から得られた仮説を立証すべく、可能であればイギリス以外の海外の庭園の調査をして、その仮説を更に深めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は最終年度になるため、今までの様々な場所で行った調査から得られた仮説をまとめていくことになる。ただその仮説をより深め、立証する必要も感じていることから、特に海外(イギリス以外の場所として、今は西欧での庭園都市であるプラハ及びその周辺が候補地)の場所の調査を追加でしてみようと思っている。 テーマとしての「歩行」による移動空間の調査は変わらないが、イギリス自然風景式庭園に見られる東屋の機能、東屋と庭園の関係、スケール感などが、日本の庭園と平面形状は似ていながら、内容が明らかに違うことが分かり、他の海外の場所における庭園の調査も勿論ではあるが、建築内部と外部空間の入り混じった空間体験、特に日本の寺社におけるものとの比較になるような事例、宗教的空間を中心に確認してみたいと思っている。これは当初の歩行の3パターンのうち「周回移動」は昨年のイギリス風景式庭園の調査にて対比が容易になったこともあり、それ以外の「往復移動」「点在間移動」に関する対比対象としての海外の場所についてである。 それぞれの国の固有の人の作った環境は、その地にあったもの(素材)、その地の気候(風土)、その地の人々の信じたもの(宗教)、そしてその地の場所の力とも言える(地勢)によって出来ているのではないかと仮説として思っている。対象として日本の特徴的な3つの歩行パターンを取り上げてきたのだが、それでは海外ではどうなのかということも知っておきたい。それらを踏まえて、日本文化としての外部空間鑑賞研究をまとめていければと思っている。
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Causes of Carryover |
当該助成金が生じた最も大きな理由は、本研究が現実空間の調査を行うことによってその空間の分析、考察を行おうとするものであったため、2020年度と2021年度の2年度にわたりCOVID19(新型コロナウイル感染症)の流行で予定していた国内及び海外の調査が制限されたことである。当初計画の場所の調査は実質2022年度からになった為、その時点からの3年間の期間になったものである。2023年度はCOVID19関連の規制が前年より更に緩和されたこともあって、ようやくイギリスの自然風景式庭園の調査も行うことが出来た(国内調査は2022年度より本来の計画通りに進められるようになっている)。今年度(2024年)は比較対象であったイギリスで得た知見を活かし、更に違った海外の場所の歩行空間の調査も行いたく思っている。また今年度は本当の最終年度になるため、取りまとめ作業も行う予定である。
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