記憶や知識が色知覚に与える影響の認知メカニズム的解明

2021 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 20K12571
• Research Institution: Hitotsubashi University
• Principal Investigator: 福田 玄明 一橋大学, 大学院経営管理研究科, 准教授 (40615100)
• Project Period (FY): 2020-04-01 – 2025-03-31
• Keywords: 記憶色 / 認知科学 / 認知神経科学

Outline of Annual Research Achievements

古くから、我々の知識や記憶といった高次認知過程がより低次の処理である知覚に影響を与えるか否かは議論となってきた。その中で、記憶色と呼ばれる色の知覚に我々の知識や記憶が影響する現象が扱われてきた。記憶色は、色の判断や再現に大きな影響を与えることが知られており、直接的な知覚ではないため、これが知覚的な現象とみなすことができるのか、いまだに議論がある。これまでに、我々は、記憶や知識に基づく色が直接的に知覚される新しい錯視現象を発見した。この新しい錯覚現象を用いて、記憶や知識にかかわる高次認知過程がより低次の知覚情報処理に与える影響を調べることが本研究の目的である。
2021年度は、計画されている色判別課題による実験の予備実験を終了し、本実験を開始した。個別実験、オンライン実験両方の形式で行った。
実験結果は、おおむね予想通りで、物理的には、二つの色のどちらにも判断できる、典型色を持つ物体が描かれた刺激図形に対する色名判断は、描かれた物体そのものの典型色に影響を受けることが示された。これは、確かに、記憶や知識が色の知覚に影響を与えることを示唆する。さらには、その反応時間を基に、知覚的判別課題における神経モデルの一種であるドリフトディフュージョンモデルでモデル化することで、知識が色知覚に与える影響の要因は、脳の知覚的意思決定過程における、物体そのものに関する知識による高次認知過程からのトップダウンのバイアスと知覚処理におけるボトムアップの情報収集の相互作用である可能性が示された。
さらに、今後は脳機能計測も行うことで高次認知過程と低次の知覚処理過程との相互作用を支える神経計算処理を明らかにする。

Current Status of Research Progress

3: Progress in research has been slightly delayed.

Reason

本研究計画では、コロナ禍より進捗に遅れが出ている。さらに、実物の写真を基にした刺激画像を使用する実験を行っており、予備実験を繰り返し、よりよい画像を作る必要があった。予備実験の中で、刺激画像中の照明の強さが、実験結果に大きく影響を与えることが明らかになり、この作業に、当初の予想以上に時間がかかることとなった。

Strategy for Future Research Activity

行動実験は、おおむね終了しているため、結果の分析、モデル化を進め、2022年度中の国際学会発表を目指す。また、脳機能計測実験も同時に進め、こちらも2022年度中の終了を予定している。

Causes of Carryover

実験の遅れにより、2021年度中に脳機能計測実験に入ることができなかったため、このための実験参加者謝金として、利用する。また、コロナ禍により国際会議発表も行わなかったため、これも2022年度中の発表を目指す。