2022 Fiscal Year Research-status Report
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20K12582
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Research Institution | Chubu University |
Principal Investigator |
川上 文人 中部大学, 人文学部, 講師 (80723064)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 微笑 / 表情 / コミュニケーション / 乳児 / チンパンジー / 非言語行動 / 社会性 / 感情 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1)研究の目的: ヒトはどのように笑顔を使い,その笑顔はどのように社会的な生活に影響を与えているのであろうか。本研究の目的は,笑顔をもちいた乳幼児と他者とのコミュニケーションの進化と発達を観察と実験から詳細に検討し,その背後にある社会的な認知能力について探ることである。「乳児における笑顔の初期発達」,「飼育下チンパンジー群れの笑顔観察」,「笑顔の伝播」,そして「表情弁別実験」という4つの視点から笑顔を体系的に理解し,何がヒト固有の能力であり,なぜそのような違いが生まれたのか考察していく。 (2)成果の具体的内容: 「乳児における笑顔の初期発達」について,データ収集をおこなった。ヒト乳児については家庭にビデオを配付し,睡眠中の自発的微笑と覚醒中の社会的微笑の撮影を依頼した。「飼育下チンパンジー群れの笑顔観察」については,これまでに収集したデータの分析をおこなった。 (3)意義と重要性: ヒトにとって日々の生活の中で頻繁に表出し,見る機会のある笑顔は,あまりに一般的であるため,実は謎が多く残されていることはそれほど知られていない。笑顔について進化と発達の視点から探った研究が少ないのが現状である。どのように笑顔を対他者関係の中で使い,それがどのくらい社会関係の維持に寄与しているのだろうか。とくにヒトの場合,笑顔が快感情をともなう場面にのみ表出されるわけではないことは確かではあるが,笑顔を探求することは,ヒトやチンパンジーを含む動物にとって,よりよい環境を築く足がかりとなると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「乳児における笑顔の初期発達」,「飼育下チンパンジー群れの笑顔観察」,「笑顔の伝播」,そして「表情弁別実験」という4つの視点のうち,2022年度は前年度に引き続き「乳児における笑顔の初期発達: 自発的微笑と社会的微笑の関係をさぐる縦断的観察」に重きをおいた。睡眠中に生じる自発的微笑と覚醒中に生じる社会的微笑を同じ参加者内で縦断的に観察することにより,2つの微笑の関係を明らかにすることが目的であった。ヒトについては家庭において実験的観察をおこなった。家庭にはビデオを配付し,生後2週から24週まで,縦断的に笑顔の頻度を計測した。自発的微笑の撮影については,24週以降も撮影を継続している。現在1例では230週を超える観察を継続しており,これまでにない,自発的微笑にかんする長期縦断観察研究となっている。自発的微笑は発達の最初期からみられるが,のちに覚醒中に他者に対して向けられる笑顔である社会的微笑に取って代わられると考えられてきた。しかし,自発的微笑は社会的微笑がみられる時期になっても継続的に表出されることが示されはじめており,その2つの笑顔の関係が不明瞭になっている。本研究ではその2つの笑顔の関係性を探っている。 「飼育下チンパンジー群れの笑顔観察: 母子間の笑顔共有はあるのか」は充分なデータが収集されたため,撮影済みであったビデオデータの分析をおもな活動とした。
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Strategy for Future Research Activity |
「乳児における笑顔の初期発達」,「飼育下チンパンジー群れの笑顔観察」,「笑顔の伝播」,そして「表情弁別実験」という4つの研究について,それぞれ検討していく。「乳児における笑顔の初期発達」については,データ収集を継続しながら分析を進め,早期の成果発表につなげる。1事例については24週以降も観察継続が容易な状況にあり,長期の縦断研究を実施している。「飼育下チンパンジー群れの笑顔観察」については,データ分析を継続し,成果発表の目処をつける。「笑顔の伝播」について,ヒトは家庭にビデオカメラを配付し,母子間の「高い高い」場面を含む遊び場面を撮影してもらう計画である。チンパンジーについては京都大学ヒト行動進化研究センターにおける視聴覚刺激呈示による実験を想定していたが,その体制変化もあり計画は縮小する可能性が高い。「表情弁別実験」は,ヒト行動進化研究センターでチンパンジーを対象とした表情弁別実験を実施し,同じデータをヒトでも収集し,比較する計画であった。こちらについても「笑顔の伝播」と同様の状況が生じている。チンパンジーを対象とした実験は本課題において非常に重要なものであるが,情勢を考慮すると,それらの実施が不可能でも全体の目的が達成されるよう計画を変更する必要がありそうである。幸い,本課題で想定している4つの研究はそれぞれが自立するものであり,研究上の意義は,観察研究のみでも十分に深いものであるといえる。引き続き,可能な範囲での研究実施をめざす。
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Causes of Carryover |
(状況) COVID-19感染症の影響により,予定していたフィールドワークのための出張の見送り,参加を予定していた学会の見送りがあり,旅費を繰越すこととなった。 (使用計画)観察のための撮影機材,分析のためのPCの購入,成果発表のための英文校閲といったものへの使用を検討している。
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Research Products
(1 results)