2020 Fiscal Year Research-status Report
リンパ浮腫による脂肪組織の肥大化および線維化メカニズムの解明
Project/Area Number |
20K12593
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
菅原 路子 千葉大学, 大学院工学研究院, 准教授 (30323041)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | リンパ浮腫 / 脂肪細胞 / 肥大化 / 線維化 / 脂肪滴 |
Outline of Annual Research Achievements |
リンパ浮腫は,皮下組織へのリンパ液滞留により四肢に強いむくみをきたす疾患であり,リンパ浮腫患者の皮下脂肪組織は肥大化かつ繊維化することが報告されている.これまでの研究により,リンパ液の滞留に伴うアルブミンおよび脂肪酸の増加により肥大化が引き起こされ,脂肪細胞周辺のマクロファージが繊維化に関わることが示唆されている.また,組織の肥大化・繊維化に伴う脂肪細胞の細胞外基質の弾性特性の変化がリンパ浮腫病態に及ぼす影響を考慮することも重要である.しかし,以上の複合的要因を考慮したリンパ浮腫の病態メカニズム解明への取り組みは皆無である.そこで本研究では,はじめに細胞外の高濃度脂肪酸が脂肪細胞の肥大化におよぼす影響を明らかにすることを試みた. 実験では,脂肪細胞へ分化中の前駆脂肪細胞,および分化した脂肪細胞に対し,脂肪酸の一種であるオレイン酸およびパルミチン酸を,アルブミンと同時に添加した.その後4日培養したのち,Oil redを用いて脂肪蓄積量を計測し,またNile redにより脂肪滴を蛍光染色したうえで共焦点顕微鏡を用いて観察した. 脂肪酸の高濃度化と脂肪蓄積量の関係を求めたところ,オレイン酸,パルミチン酸のいずれも,添加濃度が高くなるに伴い,脂肪細胞の脂肪蓄積量が増加した.また,同じ添加濃度において,アルブミンと同時に脂肪酸を添加した場合,アルブミンを加えない場合に比較し,より脂肪蓄積量の増加が確認された.また,脂肪滴の蛍光観察画像に基づきその半径を計測した結果,脂肪酸の添加濃度の増加にともない,脂肪滴半径が増大した.以上より,脂肪酸の高濃度化は,脂肪蓄積量の増加および脂肪滴の肥大化を引き起こし,リンパ浮腫による脂肪組織の肥大化を促進する可能性が示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目については,高濃度脂肪酸およびアルブミンが脂肪細胞の肥大化に及ぼす影響について,想定以上に順調に研究が進展した. 一方,脂肪細胞の線維化に関する研究について,当初は粘弾性特性が異なるポリアクリルアミドゲルを作製し,そのうえで脂肪細胞を培養することを考えた.しかし,ポリアクリルアミドゲル上にて脂肪細胞を分化させることができなかったことから,想定外に時間がかかった.結果的には,十分にゲルの弾性率を変化させた実験を実施できず,2年目に改めて検討が必要な事項となった.また,線維化に関する研究として,高濃度脂肪酸およびアルブミンが脂肪細胞のコラーゲン分泌に及ぼす影響を検討するための予備実験までは実施できた.コラーゲン分泌量の定量化およびコラーゲン分布の観察方法を検討し,2年目開始より計測データ取得を開始できる状況とした. 以上をふまえ,現在までの進捗状況は,おおむね順調に進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
2年目は,高濃度脂肪酸およびアルブミンが脂肪細胞のコラーゲン分泌に及ぼす影響の検討,および細胞外基質のヤング率の違いに伴う脂肪細胞の変化の検討を実施し,細胞外力学環境を考慮した脂肪細胞の線維化に関する研究を推進したい. 脂肪細胞のコラーゲン分泌については,脂肪酸の濃度の違いにより,脂肪細胞自身のコラーゲン分泌が変化し,細胞外の線維組織に違いが生じることが,1年目の事前実験において確認された.これはすなわち,化学環境である高濃度脂肪酸により,脂肪細胞自身が周囲の線維組織を変化させ,その結果細胞外基質の弾性率に変化が生じる,という化学環境および力学環境が相互に関連する現象であることが予想される. そのため,ますはじめに,力学環境のみの変化が脂肪細胞に及ぼす影響,すなわち細胞外基質であるポリアクリルアミドゲルの弾性率の違いに伴う脂肪細胞の変化に関する実験を実施する.細胞外基質の弾性率が,通常生体内からリンパ浮腫組織内まで,広い範囲の弾性率を有するよう調整し,その違いに伴う脂肪細胞の脂肪蓄積量,脂肪滴の大きさ,そしてコラーゲン分泌を計測・観察したい. また,上述のように脂肪細胞のコラーゲン分泌が脂肪酸濃度の違いにより異なることが,事前実験において確認された.そのため,脂肪細胞のコラーゲン分泌量,および細胞外コラーゲン線維組織の観察を実施し,細胞自身が細胞外の力学環境を変化させることに関する計測・観察を実施したい.
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