2021 Fiscal Year Research-status Report
アスコルビン酸によるケミカルダイレクトリプログラミング促進機構の解明
Project/Area Number |
20K12627
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Research Institution | Kyoto Prefectural University of Medicine |
Principal Investigator |
倉橋 敏裕 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (00596570)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 再生医療 / アスコルビン酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで抜本的な治療法のなかった疾患に対して、治療や創薬の面から再生医療の発展が望まれている。そうした再生医療のリソースとして、ES/iPS細胞や組織幹細胞の応用が期待されている。一方で、それら幹細胞の応用に際しては、残存する多能性幹細胞の混入や遺伝子導入による予期せぬ腫瘍化リスク、時間・コストを要するといった問題点の克服が必要とされている。こうした問題点を克服する手法として、ある種の体細胞から他の種類の体細胞を、多能性幹細胞を経ることなく直接誘導する手法(ダイレクトリプログラミング法)が近年注目されおり、これまでにいくつかの細胞種に関して報告されてきた。しかし、それらはいずれも遺伝子導入を伴うもので、移植後の腫瘍化リスクの問題点などが依然のこる。 そこで所属研究室では、そうした遺伝子導入を用いた既存のダイレクトリプログラミング法の問題点も克服する目的で、遺伝子導入を用いずに低分子化合物を用いたダイレクトリプログラミング法(ケミカルダイレクトリプログラミング法)の開発に取り組み、ヒト線維芽細胞を神経様細胞(Dai et al, JCBN, 2015)や褐色脂肪細胞(Takeda et al, Sci Rep, 2018)へ直接誘導する手法の開発に成功してきた。 最近、ケミカルダイレクトリプログラミングを促進する物質を検索し、アスコルビン酸(AsA)を見出した。AsAはエピゲノム制御などを介して幹細胞の多分化能維持や癌細胞の進行過程などで重要な役割を担っていることが近年明らかになってきており、そういった知見との関連が示唆される。 今後、より安全で高効率なケミカルダイレクトリプログラミング法を開発・応用するためには、細胞リプログラミングの根本原理を理解することが重要である。そこで本研究ではAsAのリプログラミング促進作用に着目し、その作用機序の解明を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでによく解析がなされている線維芽細胞から脂肪細胞への分化誘導系を用いて、AsAが分化効率を促進することをみいだした。脂肪分化促進の一因と考えられる因子Aの遺伝子発現が、AsA添加により促進されていることを確認した。その因子Aの遺伝子発現制御に重要であることが知られている転写因子Bの遺伝子発現についても調べたが、転写因子Bの遺伝子発現はAsA添加の影響をうけていなかった。近年、転写因子Bはタンパク質レベルでの制御、および翻訳後修飾によりその活性が調節されていることが明らかになってきている。そこで、転写因子Bのタンパク質レベルおよびリン酸化レベルを調べたところ、AsA添加により、脂肪分化誘導後のある期間において転写因子Bのタンパク質レベルおよびリン酸化レベルの上昇が確認された。現在、AsA添加による転写因子Bのタンパク質レベルの変化が脂肪分化誘導促進に重要か否かを確認している。
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Strategy for Future Research Activity |
脂肪細胞分化誘導系において、脂肪分化誘導に重要な役割を担うことが知られている因子のタンパク質レベルおよびリン酸化レベルがAsA添加により上昇していることを見出した。今後は、この因子のそうしたレベルの上昇がAsA添加による脂肪分化促進に重要であるかを明らかにしたい。もしそのレベル上昇が脂肪分化誘導に重要であった場合、AsA添加により、どのようにそのレベル上昇が起きるのかを明らかにする。AsAの作用点と上記因子のレベル上昇の関連性を明らかにすることにより、線維芽細胞のリプログラミングにおけるAsAの新たな生理的役割を明らかにしたい。
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