2020 Fiscal Year Research-status Report
インクジェット技術を利用した細胞Durotaxis誘導基材作製の確立
Project/Area Number |
20K12661
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
津留 美紀子 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋機能利用部門(生命理工学センター), 准研究員 (60399574)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | インクジェットパターニング / Durotaxis / ゼラチン / 酵素活性測定 |
Outline of Annual Research Achievements |
創傷治癒やがん転移、細胞分化に関与する細胞の遊走の一つで、細胞が基材の硬さを認識して、軟から硬領域を指向し遊走する現象(Durotaxis)の研究は、創傷治癒過程で起きる細胞と基質の相互作用や、幹細胞が基質の硬さで分化系統を決定するメカニズムの解明など、再生医工学における細胞機能を操作するための材料を創成する重要な情報源となる。Durotaxis解析には、細胞が認識できるマイクロスケールで硬さ(弾性)勾配を精密制御する足場基材設計が求められている。 本研究の目的: Durotaxis誘導足場基材の新しい設計方法として、ゼラチンハイドロゲル表面にインクジェット極微量分注装置を用いてプロテアーゼを数十pl滴下し、酵素加水分解に伴うネットワーク構造の破壊から弾性勾配加工する手法を確立する。 研究実績:本研究は、これまで研究代表者が確立した新規酵素活性測定技術を、Durotaxis誘導足場基材の設計技術として活用していることから、実験設備の調整を必要とした。そこで初年度は、研究計画を精査し、プロテアーゼをゼラチンハイドロゲル表面に滴下直後から反応する加水分解による弾性改変を高精度に解析できるよう、ピエゾ式インクジェット微量分注装置の改造と、インクジェット微量分注装置用にゼラチンハイドロゲル用のサンプルホルダーの設計を行なった。その結果、ゼラチンハイドロゲルのコンタミネーションを極力抑えて、酵素滴下後のゼラチンハイドロゲルの表面計測への移行を迅速に行う実験系を構築できた。並行して、Durotaxis誘導実験に検証に必要な、培養温度の影響を受けないゼラチンハイドロゲルの検討も進めた。架橋条件を検討したところ、細胞培養の実績もあるグルタルアルデヒド架橋ゼラチンハイドロゲルが利用できることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、初年度に酵素溶液のインクジェット滴下条件の最適化とインクジェットパターニングを検討する予定であったが、実際は、一部実験計画を見直し、高精度にゼラチンハイドロゲルの酵素加水分解特性を検証できるよう実験環境の整備を優先した。その結果、実験計画における課題抽出と改善案の構築に想定以上の時間がかかってしまった。今回行なった装置の改造、および治具の作製については、導入によって実験系の有効性を確認しており、次年度以降の研究を円滑に進める環境は整った。 初年度は、弾性改変足場基材として、グルタルアルデヒド架橋ゼラチンハイドロゲルの有効性を示すことができた。次年度以降は、このグルタルアルデヒド架橋ゼラチンハイドロゲルを基質として最適化を検討する。 これらの結果から、初年度は当初計画から少し遅れていると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、グルタルアルデヒド架橋ゼラチンハイドロゲルの酵素加水分解特性を詳細に解析する。具体的には、研究代表者が確立した新規酵素活性測定技術を用いて、数種のプロテアーゼについてそれぞれの酵素活性特性の測定を行い、比較することで相関性を検証する。また、それぞれのプロテアーゼの特性、相性など考慮し①酵素の選定および酵素反応条件(酵素濃度、反応温度、反応時間)の最適化を進める。①で得られた条件を基に、②マイクロパターニング条件(ピッチ、滴下速度など)を検討し、Durotaxis誘導を検証する弾性勾配ゼラチンハイドロゲルを作製する。得られた弾性勾配ゼラチンハイドロゲルは、③原子間力顕微鏡を用いて表面弾性勾配の計測を行い、酵素反応条件との相関を検証する。並行して、④実際に細胞培養実験を用いたDurotaxis誘導の有無を検証する。①から④の解析を繰り返すことで、Durotaxis誘導可能な弾性勾配足場基材の設計条件を見出す。
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Causes of Carryover |
当初の予定では、初年度に細胞遊走をタイムラプス計測する装置を導入し、本研究手法で得られる様々なゼラチンハイドロゲル足場弾性勾配基材について、Durotaxis誘導の有無を検証する実験系の構築を進める計画であった。しかし、細胞実験に耐えられるゼラチンハイドロゲルをまず選定する必要が生じたため、先にゼラチンハイドロゲルの最適化の検討を進める方針に変換した。初年度は細胞培養実験に必要とする設備備品の内容を見直す作業を進めたため、それに関する費用の支出には至らなかった。次年度も、ゼラチンハイドロゲルの最適化を進めるため、滴下液量の異なるインクジェットヘッドを購入し、さまざまな酵素反応条件、およびマイクロパターニング条件(ピッチ、滴下速度など)で加水分解による弾性改変の検証を行う。また、グルタルアルデヒド架橋ゼラチンハイドロゲルの酵素加水分解特性を詳細に解析するために新たにデータ解析ソフトを導入する。
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Research Products
(1 results)