2020 Fiscal Year Research-status Report
The Frankfurt School and pragmatism
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20K12781
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
上田 知夫 法政大学, 法学部, 准教授 (80816893)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | プラグマティズム / 語用論 / 真理論 / ハーバマス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、ドイツ語圏の社会哲学の議論を理論哲学的な観点から解明することを目指したものであり、本年度の研究計画は、ハーバマスの真理概念に着目した。彼の議論の内実をアメリカのプラグマティストたちとの対話の分析を通じて理解することにその中心的な課題がある。この課題について得られた実績について、以下AとBの2点に分けて記す。 A. ハーバマスの直接の対話相手は、ローティやブランダムといった論者たちであるが、現在のプラグマティストたちの理論的な展開を理解するために、今年度は現代の代表的なプラグマティストの1人であるミサックなどの見解も同時に検討した。 ハーバマスの真理の分析は、プラグマティックなものである。すなわち、その分析の対象は真理述語「~は真である」の適切な使用についてである。本年度比較考量したのは、プラグマティストの内、真理のデフレ論者たちである。彼らは真理述語について、特有の使用法があるということを否定する。とりわけ今年度は、そのようなデフレ論の代表的な立場である脱引用説の立場とそれに対するハーバマスの批判点を検討した。その際に、ハーバマスとは異なる議論の仕方を検討するために、現代のプラグマティストの議論をあわせて検討した。その上でハーバマスの提案する代替案を検討した。その結果として、プラグマティックな真理論のいくつかの側面についての知見を得た。 B. 文献の精査の途上で得られた重要な知見の一つが、ハーバマスの真理論と宗教論の繋がりについてである。とりわけ真理論の中心概念である正当化概念および宗教論で用いられる系譜学概念の間の関連が重要である。ハーバマスによる系譜学概念の使用については、ハーバマスとフーコーの間の議論の脈絡で有名であるが、近年のハーバマスが注目している宗教論の脈絡でも重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画を作成した段階では、海外(とりわけドイツ及びフランス)での研究発表および文献収集が可能である見込みであったが、コロナウィルスの蔓延に伴う旅行制限の影響を受けて、この部分の研究計画は遂行できなかった。いくつかの文献についてはこのために収集がかなわなかった。この部分の進展はしたがって計画通りであるとは言えない。 本年度は、このために生じた時間を利用して国内での文献収集および論文草稿の執筆ならびに投稿論文の査読への対応を行った。その結果として、上記Aの成果について、査読付きの論文を欧文誌に英語で公表できた。また文献の精査については当該論文および現在準備中の草稿の範囲で当初のとおりプラグマティズムの文脈におけるハーバマスの位置づけについて一定の知見が得られたので、研究の進捗状況として概ね計画通りであると評価している。 文献の精査の途上で得られた重要な知見の一つが、上記Bの成果である。それは、ハーバマスの真理論と宗教論(とりわけそこで用いられる「系譜学」の概念)の繋がりについてである。この知見はまだ萌芽的なアイディアの段階に留まっており、さらなる精査を必要とする。しかし研究計画のときには見通せなかった新たな展開が得られたので、この観点から研究計画を超える進展が得られたと言える。 以上を総合的に勘案し、研究は概ね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の基本方策の中心は、引き続きハーバマスを中心とするドイツの社会哲学者たちをプラグマティストとして位置づけるための文献研究である。今後は、規範的な発話について(そしてその評価語としてのハーバマスの正当性概念)の分析に移行したい。真理概念と正当性概念についてハーバマスは、その分析の共通性を強調する。この並行関係を検討するのが具体的な課題となる。とりわけ中心となって研究の対象とするのは、1990年代以降のハーバマスの著作である。なかでも「『正当性』対『真理』」という論文は重要である。これらの検討をすすめる中で、ハーバマスの正当性概念について、本年度明らかにしようと試みた真理概念の変化と比較する。 また上記Bで手に入れた知見についてもさらなる検討を進める。これまでの研究では収集しきれない文献が多いので、こちらは文献調査を行い、リストを作成の上必要な文献を手に入れるべく努力したい。 国外での文献収集等ができない場合は、文献精査と同時にこれまでの研究経過を結果をまとめていくことに注力する。ドイツ語または英語での原稿の準備を行い、口頭発表できる機会を探りたい。 今後とも海外への渡航による文献収集および口頭での研究発表に困難が生じる可能性があることが課題ではあるが、引き続き、海外渡航の機会を探りつつ日本国内で収集可能な文献の収集および文献の精査また国内での研究発表の機会を求める予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは、研究成果にも記したとおり国外での文献収集ができなかったことによる。コロナの状況が許せば、再び、ヨーロッパでの文献収集を行うことを計画している。したがって旅費の計上については、計画通りとしたい。 次年度使用額を用いて現在準備中のドイツ語論文のネイティブチェックを依頼しているところである。こちらはネイティブチェック終了次第執行する予定である。
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